出身地が西の作家が売れている
上半期の主な売れ行き良好作家は、村上春樹=京都、百田尚樹、東野圭吾=大阪、湊かなえ=岡山、東川篤哉=広島、有川浩=高知。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。「週刊ポスト」で「松田哲夫の愉快痛快人名録 ニッポン元気印時代」を連載中です。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』。
イチオシ!作者が真っ向勝負した力作揃いの短編集
少女の髪の分け目が畦道に繋がっていく、ちょっと怖い騙し絵の表紙がひときわ目をひきます。素っ気ないタイトルからは、作者の並々ならぬ自信が伝わってきました。早速、読んで圧倒されました。こんなに充実した短編集、そうそうありません。収録された六編が、それぞれに異なるジャンルでありながら、桜庭さんらしいテイストが色濃く伝わってきます。どのお話にも、尋常ではない人物が登場してきますが、作り話っぽくなく、物語の細部にまでリアルな血が通っているのです。そして、もっと読みたいと思っているのに、絶妙のタイミングで話を終える着地も鮮やかです。圧巻は、絶対に恋に発展することのない男と女のお話二編「モコ&猫」と「冬の牡丹」です。どちらも、風変わりなお話ですが、普通の恋物語よりも妖しく、悩ましくぼくの心を揺さぶりました。
ミステリーの醍醐味をたっぷり
失業したライターのニックは故郷ミズーリに帰ります。ニューヨーク育ちの妻エイミーは田舎町の生活に不満でした。そして、結婚五周年の記念日に彼女は失踪してしまいます。グイグイ引き込まれる絶妙な語り口、とんでもない展開、大胆なエンディング、存分に楽しめます。
食と職をめぐる元気小説
派遣社員の三智子は、上司であるアッコ女史の指図で、一週間、思いがけない冒険ができるのでした。大手町までジョギングして移動販売車の弁当を買ったり、昼限定のカレー屋を手伝ったりします。美味しくて栄養満点の料理を食べたようにハッピーな気分になれる小説です。
海中の世界に誘う絵本
『海獣の子供』で海中の世界をダイナミックに、繊細に描ききった五十嵐さんがはじめて手掛けた絵本です。アンデルセンの「人魚姫」と違って、ラグーンの外には過酷な弱肉強食の世界が広がっていました。人魚と一緒にスリリングな海中冒険に出かける気分になれる絵本です。
若手写真家の愉快な写真集
彼女が生まれ育った故郷・能登を撮った写真集。おどけた表情をした子どもたち、変な格好をした犬など、絶妙のシャッターチャンスで、おもしろい瞬間、雰囲気のある瞬間を鮮やかにとらえています。見ている人を、これだけ笑わせ心なごませる写真というのは珍しいですね。