坪内逍遙大賞に小川洋子さん
早稲田大学坪内逍遙大賞選考委員を務めて4回目、村上春樹さん、多和田葉子さん、野田秀樹さんに続き小川さん受賞が決まりました。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。「週刊ポスト」で「松田哲夫の愉快痛快人名録 ニッポン元気印時代」を連載中です。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』。
イチオシ!この世界から爽やかな風が吹いてくる
太宰治賞を受賞した新人作家の作品ですが、朝日新聞の「文芸時評」で大絶讃され、注目を集めています。これは、オーストラリアの田舎町を舞台に、アフリカ難民で辛い人生を送ってきた黒人女性サリマ、研究者の夫に従って移住した日本人女性ハリネズミ、この二人がしだいに交流を深め、互いに成長していく姿をていねいに描いた物語です。そして、あらゆることがよそよそしく感じられたこの国で、言葉や仕事、周囲の人たちとの関係が徐々にほぐされ、馴染んでいくことで、彼女たちの未来が開けていくのでした。いま、世界中のいたるところで起こっている異文化と言語の問題を、見事に物語に結実させた貴重な作品です。さらに、作者自身が異国の地で経験したことを踏まえて、何としても書き留めておきたかった、その気持ちが痛いほど伝わってきます。
迫力満点の警察学校ミステリー
ある県警の警察学校では、生徒たちが職務質問や取り調べなど初任研修に励んでいます。彼らの間には、さまざまな問題があり、犯罪スレスレの事件も発生します。クセのある人物たちが、張りつめた緊迫感の下で苦闘する姿が迫ってきます。横山秀夫さん絶讃の警察小説です。
脱線が楽しいユーモアエッセイ
八十歳の著者は耕耘機まで購入して、東京杉並区久我山で三メートル×十三メートルの農場を経営しています。四季折々の、畑と農作業の様子が報告されていくのですが、その話がすぐに脱線してしまうのです。読んでいると、笑みがこぼれてくる絶妙なユーモアエッセイです。
ホンワカとした絵に心和む
「わたしの話すことばは、どんなかたちや色をしているだろう」……そういうテーマで描かれた絵本です。ここに出てくることばは美しいもの、優しいものばかりではありません。でも、そういうものを含めて、ことばの大事さを心和む絵とともに考えさせてくれる素敵な本です。
不倫話なのに明るい恋愛漫画
「妻を軽く誘惑して欲しいんだ。少しは女らしくなるんじゃないかな」上司である上条に頼まれた派遣社員の佐伯が、夏の飾らない魅力に惹かれていって……。夏は四十代でふたりの子持ちですが、家族を大事に思う自分と佐伯が大好きな自分を同時に肯定しようと決意します。