「第18回読売出版広告賞」のこと
前回から同賞の選考委員を務めています。北村薫さん(委員長)、荻野アンナさんなどと和気藹々話しながら楽しく選考しています。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。個人編集の「小学生までに読んでおきたい文学」(あすなろ書房)が好評刊行中です。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』。
イチオシ!恋愛小説は犯罪に似ている!?
ひとりの若い女性が恋をして、働き始め、やがて恋愛小説を書くようになるまでを描いた小説です。主人公は作者と同年代ですが、作者そのものではありません。しかし、ここには作者自身の気持ちが私小説よりも強烈に表現されています。この小説は、主人公の身のまわりで起こったことを、比較的淡々と綴っていくのですが、読んでいるぼくたちは、彼女がどこにいってしまうのかを見届けたいという気持ちがどんどん募っていきます。そのうちに、こういう気持ちで読んだ作品があったことに気づきました。それは女性犯罪者を主人公にした角田さんの作品群、『八日目の蝉』、『森に眠る魚』、『紙の月』でした。そして、この女性作家にとっては、小説を書くという営為が、やむにやまれず犯罪に走ってしまう女性たちの心情と限りなく近いことなんだと感じたのです。
下町が舞台の熱血老人物語
『舟を編む』はじめいろんなお仕事小説を書いている三浦さん、今回は、東京下町のつまみ簪職人・源二郎と元銀行員の国政、合わせて百四十六歳の友情物語です。ふたりは性格も生き方も正反対なのに、幼なじみで大の仲良し、身の回りの出来事をコンビで解決していきます。
市井の人びとが演じるドラマ
イタリアに三十年間暮らしてきたジャーナリストで名エッセイストの最新作です。彼女は、好奇心と行動力で人の世にあるあらゆる人間ドラマを探り当て、愛情を込めて語ります。珠玉の短篇小説を読んでいるような、映画の一場面を見ているような、人間エッセイの白眉です。
恋するがごとき交友録
この本の魅力は、まず自然体で融通無碍な語り口にあります。それに加えて、登場する人たちの多士済々な顔ぶれとバラエティの豊かさには圧倒されます。この驚くべき幅の広さは、旺盛な知識欲、限りない好奇心、類まれな遊び心という安野さんの個性から発しているのです。
生きる意味を問い直す
著者は、一時代を画した名雑誌編集者でありながら、次々と愛人をつくり、億単位の借金を背負うという際どい生き方をしてきました。そういう自分の生き様を洗いざらいさらけ出した真摯な告白は、いま、生きがたく感じている人たちには、何よりの励ましになるでしょう。