第150回芥川賞・直木賞決定!
芥川賞が小山田浩子さん、直木賞が姫野カオルコさんと朝井まかてさん、前回同様、全員女性作家。芥川賞は4回連続女性でした。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。個人編集の「小学生までに読んでおきたい文学」(あすなろ書房)が好評刊行中です。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』。
イチオシ!幕末を生きた女職人のひたむきな人生
深い感動とともに、この小説を読み終えました。時代は幕末、舞台は中山道木曾山中の藪原宿。主人公は、この地域の名産品である「お六櫛」の名人吾助の長女登瀬です。お六櫛は髪や地肌の汚れをくしけずるための櫛なので、たった一寸(約三センチ)の幅に約三十本という驚異的な細かさで櫛歯が挽かれています。内外の波乱に翻弄されながら、登瀬は作業場である板の間に座り続け、吾助の櫛を挽く拍子を自分のものにしたいと、ひたすら技を磨いていきます。この小説には終始、櫛を挽く音が響いています。さらに耳を澄ますと、登場人物たちの鼓動や息づかいまでもが聞こえてくるようです。歴史上のある時点で演じられたドラマを、その時代の空気そのまま、生身の人間そのまま、鮮やかに切りとって見せてくれる「歴史体感小説」とでも呼びたくなる作品です。
第百五十回直木賞受賞作!
樋口一葉の師匠だった中島歌子の波乱の人生を、手記の形で綴った、骨太の時代小説です。歌子は、幕末の江戸で、水戸藩士との恋を実らせ、水戸へ嫁いでいきます。開国か攘夷かの激しい対立のなかで、過酷な運命にもてあそばれる一人の女性の哀しい一生を描き尽くします。
カルナバルの魔法が心を開く
サンバのリズムにのって繰り広げられる、この物語の舞台はリオ・デ・ジャネイロ、主人公は十五歳の少女アリコです。彼女の前に、同い年の神出鬼没な少女ナーダが現れます。そして、それまで、ほとんど閉ざされていたアリコの心の扉が、少しずつ開かれていくのでした。
素敵なコラボレーション
主人公の男の子は、他人に関心を持って、「どーした」を連発するので、うるさい子、お節介、出しゃばりと思われがちです。でも、こういうキャラクターのおかげで、辛い状況から助け出される人もいるのです。人と人との直接的な関わりの大事さを教えてくれる絵本です。
子への愛・「君」への愛
俵さんが八年ぶりに発表した第五歌集です。東日本大震災後に仙台から沖縄石垣島に移り住んだ俵さん。「刺身」に喩えている子どもの成長を喜ぶ歌が目立つなかで、「君」と呼びかけている恋の歌には、相変わらず爽やかな艶っぽさがあり、読んでいてドキドキしました。