あすなろ書房のアンソロジー
「中学生までに」2シリーズに続き「小学生までに」6巻が完結しました。これまで、3シリーズ24巻で約30万部と大変好評です。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。個人編集の「小学生までに読んでおきたい文学」全6巻(あすなろ書房)が完結した。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』。
イチオシ!日本的な村社会とそこで燻る男女の性
この物語の舞台は東京郊外の寂れた商店街で、それぞれのお店が家族ぐるみでつきあっています。みひろの母親は男を作って家を飛び出し、「いんらんおんな」と人々の間でささやかれています。一方、圭祐と裕太の父親もスナックのママさんと浮気しています。そして、若者たちは心と体のアンバランスに悩み続けます。『ふがいない僕は空を見た』の衝撃的な性描写から始まった窪ワールド、ひとまわり回って、再び性が中心にある世界が描かれています。窪さんの書く性描写は、読んでいてドキドキするような赤裸々さがあると同時に、微妙な心の動きも描かれているのです。そして、切ないほどの恋物語であるとともに、都会にも色濃く存在している村社会の閉鎖性をえぐり出した物語でもあるのです。窪さんの作家としての成熟を感じさせられる一作です。
優しさの奥底にある必死の思い
最初のページから、「お兄ちゃん」と名乗る怪しい青年が登場してきます。彼のペースに巻き込まれながら、軽快な文章のリズムに乗っていくと、「お兄ちゃん」の謎が解けるとともに、爽やかな感動と素敵なエンディングにたどり着くのでした。これが瀬尾マジックです。
ゴッホ伝説を覆す大胆な物語
「このマンガがすごい!2014」のオンナ編1位に輝いた作品です。ゴッホ兄弟の物語を弟のテオドルスを主人公に描いていきます。よく知られているゴッホとは、ちょっと印象が違うなと思いながら読み進むと、最後の二回で衝撃的な展開が……。ソルシエ=魔法使いは誰?
見知らぬ国のスケッチ アライバルの世界
ショーン・タンは、懐かしくて奇妙な絵本世界を描いてきました。彼の代表作、文字のない絵だけの感動的な絵本『アライバル』が、どのようにして生まれたのか。アイディアやストーリーのもとになったスケッチををふんだんに交えて、創作の秘密を作者自身が明かします。
始まりを知ることは楽しい
スキー、アイスクリーム、国旗、万年筆……江戸から明治、人々は苦労して新しいものを取り入れ、初めてのものを作りだしました。歴史小説家が豊富な史料を駆使して書いた『事物はじまりの物語』。綿密な取材ぶりで知られる著者の旅のエッセイ集『旅行鞄のなか』を併収。