安西水丸さんの「お別れの会」
5月29日、青山葬儀所で開かれました。和田誠さん司会で、嵐山光三郎さん、南伸坊さんなどの心のこもった弔辞が印象的でした。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。個人編集アンソロジー「小学生までに読んでおきたい文学」などが好評、重版が続いてます。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』。
イチオシ!恋愛小説とはひと味違う男女の物語
自著のなかで執筆の動機を語ることがほとんどなかった村上春樹さんですが、この九年ぶりの短編集では珍しく「まえがき」で、この一連の短編小説をなぜ書いたのかを「業務報告」しているのが新鮮です。収められている短編は、すべて中高年の男を主人公に、女との関わりから生じる物語を描いたものです。先立たれた妻の不倫にこだわり続ける男、女たちと上手に遊んできたのに、恋に落ちた五十男、妻の浮気を目撃して、すべてを捨ててバーにこもった男など、男と女の物語なのですが、恋愛小説ではありません。かたくなに自分の哲学を貫き通しながら、内省的で煮え切らない男たちと、心のおもむくまま自由に生きる女たちとのすれ違いの物語だとも言えるでしょう。そして、この短編群は、次に書かれる大きな物語への助走になっているような気がします。
山を歩き自分と対話する女性
四十歳を目前にした雑誌副編集長の「わたし」は、自分の人生や仕事について深い悩みを抱えていました。しかし、山登りの魅力を知り単独行を重ねることで、こわばっていた心が開かれ、確かな歩み方ができるようになります。主人公の元気が伝わってくる心温まる小説です。
江戸の町に迷い込んだような
味噌問屋のお内儀おえんは、不貞という濡れ衣を着せられて離縁され、芽吹長屋に移り住みます。やがて彼女は、「結び屋」の看板を掲げて、お見合い、茶飲み友だち探し、夫婦げんかの仲直りなど、人と人との縁を結んでいきます。細部にまで血が通った極上の人情噺です。
「潜入」でも「暴露」でもない
福島第一原発とそこで働く人たちの日常、そして、この先何十年もかかると思われる廃炉作業の現実を、あくまでも作業員の立場から描いた現場発のルポルタージュ・マンガです。文章でもない、映像でもない、マンガだからこそ表現できる、伝えられることがあるんですね。
天才宇宙物理学者の語る自伝
博士は二十一歳のとき、不治のALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されました。それから半世紀、進行する病と闘い、介護役の奥さんとの離婚にも直面しながら、宇宙の生成と死滅に関する研究を進めてきました。はてしない問題が、彼の生きる力になってきたようです。