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芥川賞・直木賞候補の発表早まる!

前回から、選考委員会の1ヶ月前になりました(それまでは1週間前)。書店や読者を巻き込んで盛り上げていくのはいいことです。

松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。個人編集の「小学生までに読んでおきたい文学」など3シリーズ全24巻(あすなろ書房)が版を重ね、ついに累計30万部を突破しました。

『平凡』

角田光代

 歴史も人生もやり直すことはできません。だから、「もし」とか「たられば」とか思うのは無駄だと言われています。にもかかわらず人間は、「もし」と考えてしまうのです。「あの人と結婚しなければ」「離婚しなければ」「あんなことをしなければ」。さらに、別れた相手が自分より不幸になるように願ったり、「別れなかった自分」と今の自分を比べてみたり。角田さんは、『八日目の蝉』や『紙の月』などで、ごく普通の暮らしをしていた女性が犯罪者になっていく姿を鮮やかに描いてきました。それに続けて、日常の中における心の揺らぎを見つめたこの短編集を読むと、犯罪に走る人たちと私たちは地続きの場所にいるんだとも感じさせられるのでした。でも、ここに登場してくるのはみんな、愛すべき人間ばかりです。だから読後感がとても爽やかなのです。

『満願』

米澤穂信

 小心な警察官の奇妙な振る舞い、離婚調停での予想外の結論に秘められたもの、やむにやまれず殺人に手を染める男の末路、控訴せずに刑に服した女の願いなど、繊細な心理描写と思いがけない展開で読者を翻弄する六編。気鋭作家の力量を印象づける悪夢のような短編集です。

『男ともだち』

千早 茜

 イラストレーター・神名葵は、心優しい恋人・彰人と同棲しながら、医者で妻帯者の愛人・真司との情事を重ねています。それでも満たされない心の隙間に、大学の先輩・ハセオが「男ともだち」として入り込んできます。男と女の間にある不可思議な感情を見つめる長編小説です。

 災害など不幸に見舞われた人たち、迫害を受けた人たちに慈しみの心をもってまっすぐに向き合い、三十一文字に歌い込む美智子皇后の短歌が私たちの胸にしみてきます。そして、そこに添えられた安野さんの温かい言葉と美しい絵が爽やかな風を送り込んでくれるのでした。

『ノー・シューズ』

佐々木マキ

 誰の真似でもない、誰も真似できないマンガや絵本の作品を生み出した佐々木さんの自伝的エッセイです。この本、四半世紀前に僕が編集刊行した『ぼくのスクラップ・スクリーン』に大幅に書き下ろしを加えています。こういう風に一冊の本が成長していくのは嬉しいものです。