新潮文庫「日本文学100年の名作」!
新潮文庫創刊100年記念アンソロジーです。9月から刊行されます(全10巻)。編者は池内紀さん、川本三郎さん、そして私です。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。「週刊ポスト」連載の交遊録が『縁もたけなわ―ぼくが編集者人生で出会った愉快な人たち』(小学館)にまとまり8月末に刊行されます。
イチオシ!壮大なスケールの歴史ピカレスク・ロマン
語り手によれば、この本の六章に並んでいる六人はすべて「私」であり、さらに鼠や猫、螻蛄でもあったことがある。どうやら、「私」は、太古より東京に棲む「地霊」で、ここでは、幕末から明治維新、太平洋戦争からバブル崩壊、地下鉄サリン事件、秋葉原通り魔殺人、果ては福島第一原発爆発まで、近現代史が地霊の視点で語られます。いつも、時代の波に乗りながら「なるようにしかならぬ」と、無責任かつ能天気に生きていく「私」の物語は、中世の悪漢物語(ピカレスク)のように痛快です。しかし、その行き着いた先に、今の時代があるのかと思うと、東京という都市の基礎、日本という国の地盤がいかに脆弱であるか、痛いほど知らされます。シーリアスもコミカルも得意な奥泉さん、その想像力、創作力のすべてを注ぎ込んだ、とてつもなく面白い大傑作です。
第151回芥川賞受賞作
世田谷にある古いアパートに引っ越してきた太郎は、同じアパートに住む女の怪しげな振る舞いに気がつきます。話を聞いてみると、彼女は隣にある水色の洋館に魅せられていました。終盤、語り手が変わると、安定していたリズムが変わり、景色にも揺らぎが生じるのでした。
暗さの向こうに光を感じる物語
奔放な母親と別れ、実の娘とも別れ、北の大地をさまよい歩いた「千春」。その幸せ薄い半生を浮き彫りにする連作小説です。千春は、周囲の人たちの演ずるドラマの脇役としてそれぞれの小話に登場してきます。そして作者は、最後に洒落た展開で読者を楽しませてくれます。
急逝したイラストレーターの遺著
水丸さんは、あまり有名すぎない城下町をこよなく愛していました。彼は、そういう町を歩き、酒を飲み、おいしいものを食べ、それぞれの町の歴史をひもとき、来し方に思いをはせるのでした。水丸さんの書いた本格的な時代小説を読みたいと思うけれど、残念ながらかなわない。
一部で話題の「ゆるネタ」マンガ
赤羽という東京のマージナルな地域では不思議なことが日々起こっています。さまざまな奇人変人たちが跳梁跋扈し、ちょっとゆるめの怪異現象が次々に発生しています。町歩き発見ものの流れを汲み、路上観察やVOWやみうらじゅん的テイストも取り入れていて、笑えます。