出版の最前線を守った製紙工場
佐々涼子さんの『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』(早川書房)は、あの大津波から半年で蘇った工場の感動の記録です。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。池内紀、川本三郎、そして松田が編集したアンソロジー「日本文学100年の名作」(新潮文庫・全10巻)が9月から刊行開始しました。
イチオシ!人間の怨念や煮詰まった思いの恐ろしさ
一作ごとに全力投球で、読者の心を揺さぶってきた宮部さん、その最新刊は時代小説ファンタジー。時は江戸時代、元禄半ば、舞台は東北の奥深い山の中。小さな村が、一夜にして壊滅してしまいます。隣藩の人狩りか、村民の逃散か。疑問を抱いて山に分け入った人びとがそこで見たのは驚くべき「化け物」でした。隣り合う二つの藩の対立、それぞれの藩でのお家騒動、幕府の目付の暗躍、など複雑な事情が錯綜するこの土地に出現した「化け物」とはなんだろう。冷酷非情な藩主側近・弾正、その兄と深い絆で結ばれた心優しい妹・朱音、この二人をめぐって陽気な浪人、謎の絵師、生き残りの少年など多彩な人びとが関わってきます。一人一人の登場人物には秘められた部分があり、それが次々に明かされるあたりのスリリングな展開は、さすが宮部さん、名人芸です。
房総の町を舞台にした十三の物語
時代小説の名手が手がけた現代小説です。陸に上がって久しい老いた海女たち、伯母から相続した別荘で目にした写真、ホテルのレストランで演奏する落ちぶれたジャズピアニスト……しがらみなどに縛られ思うようには生きられない人々、その光と影を鮮やかに描き出します。
目利きの選んだ逸品、珍品
嵐山さんは、名随筆「文人」シリーズで、作家の食と文学と人生を鮮やかに調理して見せてくれました。美食、偏食、大食、小食など、食生活を通して、その人の文学を眺めると、思いがけない発見もありました。この本では、その元ネタを惜しげもなく紹介してくれています。
いろんな読み方ができる絵本
十二人の老若男女の二時間ごとのスナップが並んでいます。そして、彼らの営みがつながっていくと、この町の活き活きとした姿が浮き出してきます。杉田さんの絵を見ていると心が和みます。彼女の描く風景や人物は、欧米のどこかの町のようだけど、とっても身近なのです。
五十六人の人たちとの交遊録
五年ぶりの新刊です。考えてみれば、ぼくがいろんな本を楽しくつくることができたのは、漫画家、哲学者、作家、絵本作家、イラストレーター、画家、詩人、タレント、女優、装丁家、写真家……など、多くの人たちとの出会いと縁があってのことでした。感謝しています。