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赤瀬川原平さんが亡くなりました

僕には、かけがえのない師であり、大切な友人でした。回顧展「赤瀬川原平の芸術原論」(千葉市美術館)は12月23日までです。

松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』、『縁もたけなわ』。毎月刊行している、池内紀、川本三郎、そして松田が編集するアンソロジー「日本文学100年の名作」(新潮文庫・全10巻)は4巻が刊行されました。

『鹿の王』上・下

上橋菜穂子

 愛と悲しみ、闘いと絶望、いのちと病い……国際アンデルセン賞を受賞した上橋さんの最新作です。「病気」というテーマを真っ正面に据えて、物語が展開されてゆきます。人間の生の根源にまでさかのぼっていくと、そこには「病気」があり、国家や民族のありようにも深く関わっているのでした。常識的に考えれば、そういう物語が面白くなるのは、きわめて難しい。でも、上橋さんは奇蹟を起こしたのです。派手な戦闘シーンがあるわけでも、華麗なラブロマンスがあるわけでもない、この物語が、私たちを引きつけてやまないのですから。「病気」とは何かを波乱万丈な物語を通して示してくれる、前人未踏の作品なのです。この奇蹟を起こしたのは、上橋さんのたぐいまれな物語力と、テーマに対する深く鋭い問いかけなのだと思います。

『悟浄出立』

万城目学

 中島敦作品に着想を得た表題作、「三国志」「史記」に材をとった作品、司馬遷の娘の話など、中国古典の脇役たちを主人公にした思索的な連作集。奇想天外な設定で楽しませてくれた万城目さんの、もう一つの顔を見ることができ、作家的な力量の豊かさを感じさせられました。

 和田さんは、十一月刊の『Book Covers in Wadaland 和田誠 装丁集』(アルテスパブリッシング)で、ご自身の著書が二百冊になりました。そして二百一冊目がこの本なのです。和田家に飼われた三代のネコ、桃代、シジミ、チー、彼らと過ごした日々がしみじみと描かれています。

 かなわぬ恋と書けない小説の前でたじろぐナズナ。彼女に思いを寄せる八神、売れない漫画家ハタノ。思い通りにはいかない人生の途上でためらい、戸惑う彼らを醒めた目で見ながら、そっと応援する文房具の妖精たち。登場人物のすべてに幸あれと祈りたくなるコミックです。

 六〇年代には前衛芸術家、七〇年代にはパロディ作家、八〇年代には芥川賞作家、九〇年代には路上観察者、写真家、常に、この人独自の表現を追求してきました。僕たちは、その存在の大きさに、死を前にして改めて気づかされました。その想像力、創作力の「謎」に迫る一冊。