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審査委員長の言葉
二〇〇九年に刊行された数多の小説の中から、私なりの評価をもとに選んだベスト作品をここに紹介したい。この年の最大の話題作は、言うまでもなく村上春樹さんの『1Q84』(新潮社)だろう。二巻ともに百万部を超えるという驚異的な売れ行きもさることながら、現代社会における善と悪の問題を真っ正面から投げかけていること、その語り口がエンタテインメント顔負けの面白さがあること、そしてノーベル文学賞はいつかなど、話題には事欠かない。ただし、いまの段階では未完の作品だということなので、賞の対象からははずした。大賞、特別賞の二作は、『1Q84』と同じく、我々にとって大事な問題に果敢に立ち向かっていった意欲作である。
松田哲夫(まつだてつお)
1947年東京都生まれ。編集者。ブックコメンテーター。筑摩書房顧問。「王様のブランチ」にて書評コーナーを13年務めた。著書に『「王様のブランチ」のブックガイド200』、『印刷に恋して』、『「本」に恋して』など。
大賞
『獣の奏者』
4』
上橋菜穂子
授賞理由:
この作品はファンタジーなのだが、架空の物語のもつ作り話めいた印象が微塵もない。T・Uを読んだ時、桁外れのスケールと面白さに圧倒された。V・Wでは、闘蛇や王獣の生物学的な解明と新たな謎、この国の建国神話と深い関わりがある秘められた謎、さらに周辺諸国との複雑な関係、真王と大公の果たすべき役割など、この世界のすべてが興味深くスリリングに描かれている。迫力満点のストーリー展開、そして、そこから導き出される優れた知恵、どちらも素晴らしく、他の作品の追随を許さない域に達している。よって「大賞」に値すると決定した。
特別賞
『ヘヴン』
川上未映子
授賞理由:
これは、「いじめ」をとことん描くことで、この世にある善悪というものの意味をギリギリまで問い詰めていく小説である。いじめの苦しさを受け入れることが正義だと語る「受難者」コジマ。あらゆることに善悪はない、すべては結果にすぎないと語る「ニヒリスト」百瀬。この二人と主人公との対話を通して、ぼくたち読者は「悪」にどのように向き合うべきか、厳しく問い詰められる。いろんな意味で、心を鷲掴みにされるお話は、二〇〇九年に発表された小説の中でも、『1Q84』と並んで、とりわけ異彩を放っている。よって、ここに「特別賞」を贈る。
新人賞
『青嵐の譜』
天野純希
授賞理由:
「元寇」に巻き込まれた三人の若者たちの数奇な運命と切ない思いが描かれる。網野史学なども踏まえながら、東アジア全体を視野に入れてダイナミックに物語は展開していく。このスケールの大きい物語をなめらかな語りで展開していく手腕は並大抵ではない。天野さんは三十歳になったばかり。この若さでよくぞ、こんなに完成度の高い物語を書いたものだ。これからも、優れた時代小説を生み出してくれることを期待して、新人賞を贈る。
新人賞
『遠くの声に
耳を澄ませて』
宮下奈都
授賞理由:
気を張って生きている女性が主人公の短編集。彼女たちが、ふと立ち止まった時、どこか遠くから聞こえてくる声がある。地球の裏側の放送、南の島からの電話、身近な人のさりげない一言、遠い日に聞いた転校生の方言、そういうささやくような声が、主人公たちのこわばりを解きほぐし、これまでと違った半歩を踏み出す勇気を与えてくれる。これからも、じんわりと温もりが伝わってくる作品を書き続けることを願って、新人賞を贈る。


 
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