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哲ちゃんの太鼓本大賞2014

審査委員長の言葉

 今年の話題作をあげていくと、宮部みゆきさん『荒神』、上橋菜穂子さん『鹿の王』、中島京子さん『かたづの!』、といった歴史ファンタジーが目立っています。近年、芥川賞・直木賞の受賞者はじめ女性作家の活躍が目立っています。「太鼓本」でもその傾向は顕著なようです。米澤穂信さん、黒川博行さんと、ミステリーでは男性作家も健闘していますが、文芸の世界での女性優位は変わらないようです。私ごとですが、今年は新潮文庫の『日本文学100年の名作』の編集作業のために大幅に時間を割くことになりました。新人作家の作品をじっくり読む時間が足りませんでした。そこで、今年の新人賞は目利きお三方の選択にお任せすることにいたしました。

審査委員長のProfile

松田哲夫
(まつだ・てつお)
1947年東京都生まれ。編集者。書評家。著書に『印刷に恋して』、『「本」に恋して』、『縁もたけなわ』。毎月刊行している、池内紀、川本三郎、そして松田が編集するアンソロジー「日本文学100年の名作」(新潮文庫・全10巻)は4巻が刊行されました。

大賞

授賞理由:

 深い愛情に包まれた歩の家族は、イランから大阪、エジプトへと転居するうちに一家離散してしまいます。そして、自分だけはまっとうだと思っていた歩までも、孤立無援に陥ります。でも、この長く辛い家族崩壊の物語を読み続けられるのは、いつでも優しく見つめてくれる矢田のおばちゃんのような存在がいるからでしょう。そして、その底には、いつも「生きる」という強い意志が働いています。今はどんなに辛くても、生きてさえいれば、必ず開かれた場所にたどり着くことができる。本を閉じた後にも、この一家の物語が与えてくれたものの大きさと温かさに、圧倒されています。よって、今年の大賞を贈ります。

● ● ● 受賞者・西加奈子さんの言葉 ● ● ●

この10年で得たものや失ったもの、すべてをぶっつけて書いたのが「サラバ!」です。この子を太鼓本大賞に選んでいただいて、(勝手に)作家としての10年を褒めていただいたような気持です。本当に嬉しい!!

【プロフィール】 西加奈子(にし・かなこ)

1977年イラン・テヘラン市生まれ、エジプト・カイロ、大阪育ち。04年『あおい』でデビュー。07年『通天閣』で織田作之助賞大賞受賞。13年『ふくわらい』で第1回河合隼雄物語賞受賞。他著に『さくら』『きりこについて』など多数。

特別賞

中島京子

授賞理由:

 文句なしに面白い小説です。江戸時代を通じて唯一の女大名の話は、それだけでも興味深いのですが、そこに、カッパやカモシカの霊などが登場してきます。リアルとファンタジーがほどよく絡み合って、物語を巧みに盛り上げていきます。さて、この女大名と配下の人たちには次々と苦難が立ちふさがります。それに立ち向かうときの、思いがけない奇策妙案。男性中心の武士道精神が主流の時代、男たちはなにかというと「打って出る」「腹を切る」と言い張る。それに対して、女大名は犠牲をどれだけ少なくするかを第一に考える。こういう哲学が、いまの私たちに一番必要なものだと思います。よって特別賞を贈ります。

● ● ● 受賞者・中島京子さんの言葉 ● ● ●

執筆中は、400年前の女大名や羚羊の角が私の肩に乗って囁き続けている気がしていました。羚羊や河童やペリカンに支えられてたいへんな決断をしつづける清心尼の半生に、寄り添って読んでいただければ幸いです。

【プロフィール】 中島京子(まつだ・なおこ)

1964年東京都生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。出版社勤務、フリーライターを経て、03年『FUTON』で作家デビュー。10年『小さいおうち』で第143回直木賞受賞。他著に『女中譚』『パスティス 大人のアリスと三月兎のお茶会』などがある。

特別賞

最相葉月

授賞理由:

 うつ病患者が百万人を超え、「カウンセリング」という言葉も日常的に使われています。でも、実際には密室で行われ、守秘義務があるためにその実態はほとんど知られていません。本書は、そういう世界に光を当て、これまでの研究と治療の歩みを、緻密な取材を重ねてたどった力作ドキュメントです。特に、河合隼雄さんの箱庭療法、中井久夫さんの絵画療法については、ていねいに検証していきます。そして、この本がとりわけ印象深いのは、著者自身の切実な思いから出発しているということでしょう。でも、そのおかげで、心の病いに向き合うための貴重な基本図書ができました。その功績を賞して特別賞を贈ります。

● ● ● 受賞者・最相葉月さんの言葉 ● ● ●

特別賞をいただき光栄です。励みになります。人がなぜ病むのかではなく、なぜ回復するのかを知りたい。そんな無謀な目標を掲げて5年間、カウンセリングの現場を歩きました。取材に協力してくださった方々に感謝です。

【プロフィール】 最相葉月(まつだ・なおこ)

1963年生まれ。兵庫県神戸市出身。関西学院大学法学部卒業。97年『絶対音感』で小学館ノンフィクション大賞受賞、07年『星新一 ─ 一〇〇一話をつくった人 ─』で講談社ノンフィクション賞、大佛次郎賞、日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、日本SF大賞、星雲賞を受賞。