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1月15日毎日新聞掲載
『リング』のユニットが仕掛ける「グランド・ホラー」
◆対談/作家 鈴木光司さん&映画監督 中田秀夫さん◆
映画『仄暗い水の底から』が19日から全国東宝系劇場で公開される。98年に『リング』で出会った作家・鈴木光司氏と映画監督・中田秀夫氏が久々にタッグを組んだ「グランド・ホラー」(至高の恐怖)が誕生した。この二人は今回、何を企んだのだろうか? 映画の完成を機に再会した鈴木氏と中田氏に、原作『仄暗い水の底から』(角川ホラー文庫)の魅力と映像化の道のりについて語り合っていただいた。
鈴木光司(すずき・こうじ)
小説家。平成2年日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した「楽園」で作家デビュー。平成8年「らせん」で吉川英治文学新人賞を受賞。「リング」「らせん」「ループ」の三部作は、ホラーブームを巻き起こした。
鈴木 映画館で「もうイヤ!」という気持ちになると思います。夜のマンション。水がびちゃびちゃとしたたるエレベーター。設定は怖いでしょう? そこに中田監督のイメージが加わったら、見る方もたまらない。大満足です。
中田 僕の撮った映画で言えば『女優霊』に近くて、気配で押す作品です。
鈴木 乾いた風、風土では怖い話は創り難い。「草木も眠る丑三つ時」と言います。どこかじめじめした雰囲気を漂わせて、霧や水気を含んだ空気が濃厚に漂い始めた時こそ、怖い状況が成り立つと思う。『リング』の井戸は底に水があるわけで、水と閉ざされた空間の二つがセットになっている。こういった組み合わせが大事です。だだっ広い砂漠で怖い話をするのは、やっぱり難しいですよ(笑)。
中田 水は物理の法則で低きに流れます。CGに頼りたくなくて、ほとんど全部ライブで撮りました。水の取り扱いは想像以上に大変でした。

鈴木「この人しかいないと思った」

鈴木 赤いバッグの使い方も際立っています。化け物でもない何気ない物が、マンションの屋上にポツンとある。この映像を見せられると、ゾッとしますよ。あり得ない場所であり得ない物があった時の恐怖。都会で生活している人にはわかる感覚だと思う。たくさんの人が貯水槽のあるマンションで暮らしている。こういう日常生活のほんの隣りにある何気ない物から、怖さをジワジワジワジワと引きずり出す映像に満ちあふれた作品ですね。
中田 赤いバッグも難しかった。大きさや古さはこれでいいか自問しています。小説の文章で表された概念を、映像で表現するのは至難の技なんです。単純に言ってしまうと、超えられない怖さなんですよ。

中田秀夫(なかた・ひでお)
映画監督。昭和60年にっかつ撮影所入社。助監督をしてキャリアを積み、平成8年「女優霊」(みちのく国際ミステリー映画祭新人監督奨励賞受賞)で劇場映画デビュー。「リング」「リング2」などを手掛ける。

鈴木 活字は読者の頭に映像をたたき込むための媒介物。今回は中田監督の手腕で映像を見せられて、なお想像力が働く余地がある。それがまた怖い。そういう風な映画の作り方をしていると思う。小説の読者も受け身的に映像をもらうだけではない。これまで生きてきたことや自身の生活について考えながら、映像を想像力で補強できるところがたくさん出てくる。なかなかできることではありません。小さい物の使い方に心を砕いている。そんな気配りの集積があるからこそ、観客も想像力を羽ばたかせることが可能になるのだと思います。

中田 今回は、自縛霊がいる場所に引っ越しなんてしなければいいのに(笑)、という話です。『リング』のように、死の恐怖に向かって物語がシンプルで力強く展開したりはしない。マンションという、閉じた空間が怖いのです。状況の描写で勝負するしかない。自分のことをホラー監督と呼んではいないのですが(笑)……そういった技量が問われました。
鈴木 第一作『女優霊』を見て『リング』はこの人に撮ってもらうしかないと思った。『浮遊する水』(『仄暗い水の底から』所収の短編)も中田監督なら怖い映像にしてくれると確信していました。原作も化け物が出てくるわけではなく、想像力で本来あり得ない物を想像してしまった話。中田監督はそういう感覚を出せる日本で最高峰の人です。

中田「鈴木光司の懐の深さを感じた」

中田 鈴木さんも「僕は決してホラー小説家じゃない」(笑)とおっしゃるでしょうが……。
鈴木 そのへんも、似てます(笑)。
中田 小説の映画化で脚本に神経質になる原作者は多い。しかし、鈴木さんの場合は、そこを大きく捕らえてくださる。「この原作をどう料理するのか、やってみろ」という感じなんです。こちらの提示するものを大らかに受け止めてくれる。『リング』でも主人公を女性にしたり、ウイルスの要素は省いてみたり、思い切って取捨選択をさせてもらった。今回も原作が短編ということもあり、肉付けさせてもらった。「やりたいようにやってみたら」と話を合わせてくださったのです。この小説には親が子を守るメロドラマの部分があります。僕はそこにグッとくるタイプ。単純な言葉で表現すると「怖くて哀しい」物語にしたいと思ったのです。最後に哀しさの部分が一気呵成に進行します。そこもしっかり描かなければと思いました。僕がノレる部分がある原作なんですね。
鈴木 あのラストシーン。僕もシナリオを読んでいましたが、映像になると違います。グッときました。アメリカ製のホラー映画には見終わって何も残らない物もあります。不気味で怖いだけ。人間の基本的感情を押さえることで親子の切なさが沁みてきます。それは本当に必要なこと。『リング』の場合は変なビデオを見てしまった子供を救出する物語とも言えます。メロドラマに訴えるのは有効な方法。『リング』も自分の娘を保育園に送り迎えした体験に支えられているから、説得力のある描写ができたのかもしれません。
中田 僕は本を読むスピードが遅いのですが、『リング』は一気に読みました。すごい密度なのに「次はどうなるんだ」と。ホラーでありながら、優れたミステリー小説でもあるわけです。そこに惹かれました。
鈴木 僕は人の話を大切にするんですよ。基本的なことを勝手に想像すると間違ってしまう。旅客機墜落の瞬間に、乗客は阿鼻叫喚せず、シーンとしていたと聞いたことがあります。人と対話をして体験を手に入れたい。そこで得た「真実」を手掛かりにして、類推していく作業が大切です。真実を押さえる段階までは、ありきたりの想像力を使わないほうがいい。陥りがちな罠にはまらないように。

「仄暗い水の底から」
1月19日より全国東宝系にてロードショー

観る人の想像力が試される作品

中田 今回は描写で見せる映画だと思います。不安や恐怖を煽るわけですが、ケレンではなく気配なんです。やれるだけのことはやったという思いはあります。人間ドラマの部分もアピールできているか、期待と不安が相半ばしています。
鈴木 とにかく、観る人の想像力が試されると思う。後味の悪い映画ではありません。ジーンときて切なくもなります。こういった映画は必ず脳の栄養になりますから、ぜひ、若い人にも、子供を持ったおかあさんにも、観て欲しいと思います。

◆映画原作◆
 
仄暗い水の底から
鈴木光司/著
出版社名/角川書店
本体価格/533円
巨大都市の欲望を呑みつくす東京湾。ゴミ、汚物、夢、憎悪・・・あらゆる残骸が堆積する埋立地。この不安定な領域に浮かんでは消える不可思議な出来事。実は皆が知っているのだ・・・海が邪悪を胎んでしまったことを。
映画公開にあわせ
デュアルカバーも発売中です!
※なお、e-honではカバーをお選びいただけません。何卒ご了承下さい。
映画関連本
仄暗い水の底から
都市伝説研究読本
出版社名/角川書店
本体価格/1,200円
こわかった。リングより怖かった・・・。映画の裏側を徹底解明。恐怖をMAXまで増幅する中田マジックの謎に迫る!水にまつわる恐怖の実話も多数収録!!
AB 水川あさみ写真集
根本 好伸/撮影
出版社名/角川書店
本体価格/2,700円
少女と大人が交錯する!18歳のA-side・B-side。映画「仄暗い水の底から」出演、第3回ミス東京ウォーカーに輝いた若手本格派女優、水川あさみのファースト写真集!
チェックしておきたい鈴木光司さんの本
リング

出版社/角川書店
本体価格/540円

同日の同時刻に苦悶と驚愕の表情を残して死亡した四人の少年少女。
少年たちはあるビデオテープを見た一週間後に死亡した・・・。
らせん

出版社/角川書店
本体価格/648円

謎の死を遂げた友人・高山竜司の解剖を担当した監察医の安藤は、不気味な怪事件に巻き込まれていく・・・。
ループ

出版社/角川書店
本体価格/648円

蔓延するガンウイルスに、今や世界は存亡の危機に立たされていた。医学生の馨は、ウイルスの謎を解くため、バイクでアメリカに乗り出す。そこに手掛かりとして遺されたタカヤマとは?ウイルスは一体どこからやってきたのか?人間の存在に深く迫り、圧倒的感動を呼ぶ、「リング」「らせん」三部作の完結編。
◆角川ホラー文庫 冬のホラーフェア開催中!
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すべての恐怖はここからはじまる。

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