紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

1949年創刊。硬派な人文書からホットなサブカルチャーまで紹介する週刊の書評新聞「図書新聞」とe-honのコラボ企画!

「図書新聞」の紙面で紹介した書評や、対談記事をご紹介します。【週1回更新】
取り上げる本や評者を厳選し、確かな見識で深く掘り下げた書評は「読み応えアリ」です!
「図書新聞」定期購読はこちら

 ◆ 3298号(4月1日発売号掲載)

敵は時間だ

――現実の壁と闘うため、地下壕で生きる死者たちと交流する言葉を想像する
対談:崎山多美×中村隆之

 ■沖縄で刊行中の総合誌『越境広場』。作家の崎山多美さんが書いた「創刊の辞」には、「思索の源泉を沖縄の歴史体験から汲み取ることを前提にし、沖縄を活動の起点」としながら「沖縄を越え世界とつながる思想を獲得するため、近隣の、台湾、韓国、中国、そして「日本」など、東アジアとの交流を広げ、つながることの重要性」が表明されている。同誌は、沖縄の言論が硬直し、一部で排外主義的傾向が見られることを強く危惧する。そうした硬直化を引き起こす主要な要因は日本の政治にある以上、この国の住民は当然無関心ではいられない。〈越境〉への誘いは、カリブ海研究の立場から沖縄について考える私にも向けられているのではないか。そうした想いが届いて崎山さんとの対談が実現した。崎山さんはエドゥアール・グリッサンの『痕跡』を、私は崎山さんの『うんじゅが、ナサキ』を話題にした。言葉と思考の全般的貧困化に歯止めがきかない今こそ〈文学〉の力が問われている。(中村隆之)(対談日・2月17日、沖縄県那覇市・ロイヤルオリオンホテルにて)

 ■見えない記憶の言葉たちを想像する…続きを読む

記録文学的な勝利

――この国の100年の問題・矛盾が凝縮している朝鮮籍を掘り下げることで、現在の荒廃をその根から問い直す
評者:崔真碩

 本書は、朝鮮籍を生きてきた6人の在日朝鮮人の人物ルポルタージュである。その人にとって譲れない一線。著者はそれを思想と言う。朝鮮籍を生きるとは、人間にとってのそのような一線、思想なのだと。だから、「思想としての朝鮮籍」。登場人物の一人である金石範も言っているように、これ以外にはない、本当にいいタイトルだと思う。朝鮮籍を生き抜いてきた在日朝鮮人たちの生き様を見事に言葉化している。

 記録文学的な勝利。本書の偉大さを、私はそう形容したい。本書に記録された6人の在日朝鮮人の生き様から、この国の戦後70年史が闇の底から克明に浮かび上がってくる。いかなる歴史書もこれほどまでに歴史の全体を照射することはできないだろう。語ることができないことや見落とされた歴史を掬い取り、人生のなかの言葉にできない感情や日常生活のなかのディテールを抱き取る。そうして、歴史を編み直す。これは記録文学にこそ成せる業だ。…続きを読む

すべてのチャップリンファンに、映画を愛する人に、読んでほしい一冊

――チャップリンは小説家としても紛れもなく一流であった
評者:山木洸二

 映画『ライムライト』は、喜劇王チャップリン晩年の代表作だ。第一次世界大戦前夜のロンドンを舞台に、落ちぶれた老コメディアンと、不幸な境遇の若きバレリーナが心を通わせるストーリーは、公開から六〇年以上を経た現在も世界中で愛されている。

 チャップリンはこの映画の制作にあたって、従来のやり方とは異なる方法を採用した。シナリオを作る前に原作小説『フットライト』を執筆したのだ。本書の前半では、これまで未発表だった『フットライト――小説ライムライト』と、主人公カルベロの人物造形スケッチ『カルベロの物語』を読むことができる。後半では、チャップリンの映画制作プロセス、物語の舞台となったロンドンや当時の大衆演芸の中心地だったミュージック・ホール、映画が作られた一九五二年当時の時代背景などが解き明かされていく。…続きを読む