紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

1949年創刊。硬派な人文書からホットなサブカルチャーまで紹介する週刊の書評新聞「図書新聞」とe-honのコラボ企画!

「図書新聞」の紙面で紹介した書評や、対談記事をご紹介します。【週1回更新】
取り上げる本や評者を厳選し、確かな見識で深く掘り下げた書評は「読み応えアリ」です!
「図書新聞」定期購読はこちら

 ◆ 3299号(4月8日発売号掲載)

SFだけじゃないヴェルヌ

――レーモン・ルーセル、ジョルジュ・ペレックから『天空の城ラピュタ』、初音ミクまで

対談: 石橋正孝×新島 進

 ■インスクリプトからこのたび「ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション」の第一回配本『地球から月へ 月を回って 上も下もなく』が刊行された。本邦初訳を中心に、刊行当時の挿絵を全収録した、全五巻の愛読愛蔵版である。本コレクションをめぐって、訳者でヴェルヌ研究の世界的権威である石橋正孝氏と、同じく第三回配本『カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』の翻訳を担当する新島進氏に対談していただいた。(2月21日、東京・神田神保町にて〔村田優・本紙編集〕)

 ■〈驚異の旅〉コレクション刊行の経緯…続きを読む

ガラパゴス諸島のダーウィンフィンチから生物の多様性を解明する

――グラント夫妻による環境変化に応答した自然淘汰による急速な進化の実証
評者:大野秀樹

 進化のメカニズムは、チャールズ・ダーウィンの自然淘汰(自然選択)と突然変異という二つの武器ですべてが説明できる、と思いがちだが、実はまだ穴だらけだ。例えば、われわれはジャン・バティスト・ラマルクの「獲得形質は遺伝する(キリンの首の例えが有名)」という用不用説は間違いだと学習したが、実際には獲得形質が遺伝することは日常的に出現している。例えば、エピジェネティクスだ。セントラルドグマ説で提唱されているDNA複製→RNA転写→タンパク質への翻訳→形質発現の経路ではなく、DNA配列の変化によらずに、遺伝子発現を長期的または恒久的に活性化させたり不活性化させたりする仕組みである。具体的には、体内外の環境要因の変化によって、DNA塩基のメチル化(メチル基が水素原子と置き換わり、遺伝子を不活性化するとりわけ重要な反応)やヒストン(DNAを核内に収納する役割をもつタンパク質)修飾(遺伝子の発現を活性化させる)などによる遺伝子発現の変化を指す。まったく同じ遺伝子を有する一卵性双生児が、大人になるにつれて外見も性格も徐々に違ってくるのは、エピジェネティクスが有力な原因の一つと考えられている。…続きを読む

法の幻想を看破せよ

――共謀罪が施行されれば、数多くの志布志事件が捏造される
評者:宗近藤生

 おそらく、多くの人は「志布志事件」とはどんな出来事だったのだろうかと思うに違いない。十四年前に起きた、一集落の住民が多数、一斉逮捕された奇妙な選挙違反事件といえば、その頃、新聞、テレビなどで集中的に取り上げられていたから、記憶を辿ることはできるはずだ。しかし、わたしは迂闊にも、本書を手にするまで、無罪判決が出たことは知っていたが、〈その後〉のことに関心を持ち続けることなく、今に至っていることを悔やんでいる。書名通り、終わってはいなかったのだ。そもそも事件は奇妙というよりは、極めて〈異様〉なものであった。

 03年4月に行われた鹿児島県議会議員選挙で、曽於郡志布志町(現在は志布志市)在住の中山信一が、定数三の曽於郡選挙区から無所属で出馬したことから、この不可解な事件は始まったといっていい。曽於郡選挙区は自民党公認の現職議員三名で占められていて、無投票再選となるはずだった。だが中山が参戦したことで、本書の中で特に明解に記しているわけではないが、当選七回(後、八回目の当選を果たしている)の大物議員・森義夫(事件の無罪判決が確定した四ヶ月後、なぜか交通事故死している)の〝逆鱗〟に触れたのは間違いない。しかも、中山が当選し現職議員一名が落選したことで、森の〝憤怒〟は異様なかたちで膨張していったと推察できる。政治家(大物県会議員)、県警、検察、裁判所という強力な権力の関係が繋がることで、いかようにもわたしたちを差配できることの象徴が、この「志布志事件」だったといってもいい。地方・中央に関係なく、その構造は張り巡らされていると考えるべきなのだ。…続きを読む