紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

1949年創刊。硬派な人文書からホットなサブカルチャーまで紹介する週刊の書評新聞「図書新聞」とe-honのコラボ企画!

「図書新聞」の紙面で紹介した書評や、対談記事をご紹介します。【週1回更新】
取り上げる本や評者を厳選し、確かな見識で深く掘り下げた書評は「読み応えアリ」です!
「図書新聞」定期購読はこちら

 ◆ 3302号(4月29日発売号掲載)

「美しい日本の憲法」の醜悪さ

著者:早川タダノリ

日本会議系の統一戦線的団体として知られる「美しい日本の憲法をつくる国民の会」という団体がある。田久保忠衛(日本会議会長)、三好達(前日本会議会長)の2氏に櫻井よしこ氏を加えた3名が共同代表として名前を連ねている。さらに代表発起人として、青山繁晴、鍵山秀三郎、神津カンナ、中西輝政氏ら三十余名がならんでおり、現代の改憲派「文化人」の分布を示す便利なリストに仕上がっている。

 この「代表発起人」のなかに、作家・百田尚樹氏の名前がある。彼は「国民の会」の宣伝用動画『「世界は変わった日本の憲法は?」~憲法改正の国民的議論を~』の制作「総指揮」としてクレジットされているほど大活躍しており、一昨年11月に日本武道館で行われた同会の集会では登壇して発言してもいる。…続きを読む

「共謀罪」法案に映し見る、横浜事件の記憶

――私たちが横浜事件の犠牲者の立場になりうる日は遠くない。いまこそ読まれるべき権力犯罪の記録
評者:新庄孝幸

 “平成の治安維持法”ともいわれる「共謀罪」法案をめぐって、国会で野党と政府の論戦が続けられているが、「組織犯罪集団」の「テロ対策」ばかりを強調して押し通そうとする政府の答弁を聞いていると、憲法に保障された思想・良心の自由や表現の自由はいまや風前の灯火であると改めて感じざるをえない。憲法を破壊する現政権は、国民の内心に手を突っ込むことを合法化しようとしているのだ。しかし、私たちの危機意識はまだまだ弱い。共謀罪が現実のものになれば、どのような社会になるか、具体的にイメージしにくいからだろうか。もしそうだとすれば、憲法記念日を前に、とりわけ出版や言論、ジャーナリズムに関わる者にとっては基点となる歴史的事件を想起する時であろう。戦時下最大の言論弾圧事件、いや近現代日本出版言論史上最大の権力犯罪として知られる、横浜事件のことである。

  横浜事件では思想・良心や表現がターゲットにされた。神奈川県警の特高は、共産主義活動や共産党再建運動をした治安維持法容疑で出版人や言論人、新聞人など六十数名の共謀をフレームアップし、芋づる式に逮捕した。獄中で激しい拷問を加えて自白を強い、五人を獄死(保釈後の死亡者一人を含む)させた。

 そもそも治安維持法の成り立ちを見ると、法案審議のおりに当時の政府は天皇制と私有財産を守ることを保護権益とし、それを脅かす組織団体の結成や加入を犯罪とする法案だと説明した経緯がある。この治安維持法が拡大解釈され、反体制の言論や反体制組織の一員と見なした一人ひとりを一網打尽に弾圧する法律になった歴史的教訓は、強調してもしすぎることはない。共謀罪が「準備行為」という曖昧な概念で犯罪実行前の「合意」を処罰することを目的とした法律である以上、やはり拡大解釈に歯止めなどなく、犯罪の準備行為や合意を探るために監視や密告や盗聴を強化し、内心の自由やプライバシーを侵害し、基本的人権を破壊する危険性は高い。「テロ対策」という名目であらゆる捜査や取締が可能になる時代は、「国体護持」という名目ですべてを可能にした時代と二重写しにならないだろうか。共謀罪とは戦後の刑事司法の仕組みを根本的に変化させ、言論、表現、思想の統制に道を開く、世紀の悪法であることはいうをまたない。…続きを読む

民話の世界、口承・伝承から書承の時代へ

――各地方の生活、風習を含んで、現代まで流れきている
評者:井出 彰

 この世界に小説や物語の類がなかったら、実に退屈で、人生は薄っぺらなものに違いない。近代に入って命名された小説はともかく、われわれの持つ想像力、創造力の豊かさ、楽しさ、時には哀しみや苦しみは、すべて物語が綾なしているといっても過言ではない。その物語の原型や源流を辿れば、神話や民話、昔ばなしやお伽話の類にゆきつく。

 はじめは、各地方々々、村々で起こった奇怪な現象や特殊な経験が、驚きや畏れと共に語られ、教訓を含めて共有され語り継がれる。そこに偶々巡り回ってきた旅芸人や行商、座頭や私度僧などの漂泊の民が村から村へ、町から町へと拡めてゆく。伝えられた話は、その地の風土色に染まりながら記憶され、幾つかは記録されてきた。多くの民話や昔ばなしは、全国各地でバラバラのようで、どこか遠い過去の記憶の底で共通し類似している。逆に類似しているようで、その土地々々の生活や風習を含んで異なったものと映る。…続きを読む