紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

どっこい生きてる

――失敗しろ! 転べ! そして立ち上がれ! 大丈夫だから!
対談:トミヤマユキコ×清田隆之

 ■トミヤマユキコ・清田隆之著『大学1年生の歩き方――先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ』が左右社より刊行された。タイトルだけを見ると、いわゆるよくあるマニュアル本のように思えるが、中身はさにあらず。昨今「ハヤリ」の「役に立つこと第一主義」に真っ向から反旗を翻す驚くべき内容となっている。著者の二人、トミヤマユキコ氏と清田隆之氏に対談していただいた。(対談日・4月14日、東京・神田神保町にて。須藤巧・本紙編集)

 ■実用至上主義、マニュアル至上主義には中指を立てたい

 トミヤマ 本書は役に立つマニュアルのふりをしてつくったけど、実のところ、大学一年生に実用的なマニュアルをインストールしたいわけではないんですよね。自分らしく生きるための考え方を伝えたいのであって、「こうすれば勝ち組になれます」と言いたいわけではない。でも、マニュアルのフリをしないと、なかなか手にとってもらえない(笑)。

 清田 ネットにせよ雑誌にせよ、記事を書くときってジレンマがあるんですよ。見出し主義というか、その見出しがクリックされる数を意識して書かざるをえない。それは本を売ることでも一緒で、ある種のマーケティング的な考え方――それを読みたい人の母数がどこにどれだけいて、その人たちに向けた言葉としての「装い」を整えないと読んでもらえないと考えてしまう……。いまの時代、「情報商材」という言葉があり、本がそのように捉えられている面もあります。そういう実用至上主義、マニュアル至上主義には中指を立てたいのですが(笑)、その「実用至上主義クソ喰らえ」というメッセージすら、実用書の装いに載せて言わないといけない。とにかく、どうすればこの本を手にとってもらえるか、かなり考えました。

 トミヤマ それはすごく考えたよね。ググればいろいろなことが出てくる時代なので、大学一年生のための情報なんて、それこそ「大学デビュー」とかでググれば、いくらでも手に入る。でも、大学一年生が本当に必要とする情報って案外ネットに書かれていないんだよ、ということは、「年の功」でわかります。しかし大学一年生は、タダで手に入る、誰が書いたかもわからない、もっともらしい情報を信じたがる。でも本当に信じていいかわからないから、不安になる。完全に悪循環です。

 本書は、大学一年生向けとしては、若干値段が高いと思うんですよ。いまは大学の先生も、学生になるべく出費させないようにしていて、教科書を買わせるとしても安いものを、という時代なので、本書の一四〇〇円も「高い」と感じるだろうと思いますが、それだけの価値があるものにしたつもりです。つまり、ネットには書いてないこととか、教授にだって教えられないこととかが書いてある。その価値がわかるのは、ひょっとしたら「元大学一年生」、つまり大人たちかもしれない。なので、年上の世代に読んでもらって、一年生にプレゼントしてもらえたら嬉しいな。

 清田 そうだよね。年上世代が自分の青春時代を振り返りながら、いまの時代や当時を考えるスイッチになってくれたら嬉しいなとも思ってます。本書は「マイナビニュース」というウェブメディアでやっていた連載をまとめたものですが、連載時は意外にも大人たちからの反応がよかった。書籍化にあたり、タイトルを振り切ってしまったのですが……。

 トミヤマ 応用が利く内容なのになんで「大学一年生」に絞るんだ、「新入生」でいいだろう、といったことも言われたけど、あくまで大学一年生にこだわったよね。大学一年生に特化した本は、少なくともいまの日本ではこの本だけだし、そこは譲れなかった。ただ本書は「今日読んだら明日から劇的に生活がよくなる」という本ではないので(笑)、「漢方」みたいなものだと思ってもらいたい。即効性はないんだけど、本書が大人たちに結構ウケてるという事実から、漢方の効能を察してくれ、みたいな感じです。

 ただ一方で、即効性がないことを許容できる学生がどんどん減ってきているのかなとは思います。大学が就職予備校化していて、学生もつねに将来を憂えている。だからとりあえず就職予備校としての大学の機能に寄りかかってしまう。あるいはマニュアルをインストールして安心してしまう。でも、それだけじゃどうにもならないのが人生だよ、ってことは声を大にして言いたかった。

 清田 とにかく「長く読んでもらえる本にしたい」というのがわれわれの願いで。読んでくれた大学一年生が、二年生、三年生になり、あるいは卒業してからも読んでもらえる本にしたかった。漢方の話が出たけど、これは決して対症療法のような本ではありません。例えば本書でトミヤマさんが「メールの書き方」について書いているんですが、マニュアル的な話には進んでいかず、「他者との距離感をはかれる人間になろう」という根本に下りていく。これって遠回りな気もするんだけど、実際のところ、「根本的な話はいいから、メールの書き方を教えてくれよ」という感性が学生に深く根づいているかどうかはわからない。商売としては即効性のあるマニュアルのほうが売れるかもしれないけど、学生のニーズがまずあってそうしたマニュアルが売れるのか、その逆なのかはわからないところがある。つまり大人のほうがマニュアル至上主義で、学生たちがそれを見て、「そうか、メールの書き方を覚えなきゃ」と思っているだけかもしれない。だから、本書を読んで「マニュアルよりも距離感か!」と思ってくれる学生だって実は多いんじゃないかと思ってます。