紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

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「図書新聞」の紙面で紹介した書評や、対談記事をご紹介します。【週1回更新】
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 ◆ 3310号(7月1日発売号掲載)

本の運命を撮る

――「もの」としての本の背後に人間がいる
その後ろに社会があり、時代がある
対談:潮田登久子×島尾伸三

 ■写真家の潮田登久子氏が、「SERIE BIBLIOTHECA(ビブリオテカ シリーズ)」三部作、『みすず書房旧社屋』『ビブリオテカ‐‐本の景色』『先生のアトリエ』(幻戯書房)を相次いで刊行した。二〇年以上にわたって本とその景色を撮り続けてきた、潮田氏の仕事の集大成となるシリーズである。本書をめぐって潮田氏と、編集を担った写真家・作家の島尾伸三氏に話をうかがった。(6月8日、東京都世田谷区にて。聞き手・米田綱路〔本紙編集〕)

 ■本の景色を撮り始めるまで

 ――『みすず書房旧社屋』収録の写真を撮られたのはどのような経緯からだったのでしょうか。…続きを読む

狂気の輪郭

――転覆の思想を孕んだ芸術「アール・ブリュット」
評者:大崎晴地

 本書は「アール・ブリュット」の古典的名著と言える、ミシェル・テヴォーの初期の代表作である。アンフォルメルとして知られる美術家のジャン・デュビュッフェと親交を結び、ローザンヌに設立された「アール・ブリュット・コレクション」の館長を勤めた人物だ。アール・ブリュットの古典的名著と言えば、一九二二年にハンス・プリンツホルンの『精神病患者はなにを創造したのか?』が知られており、本書は一九七五年に出版されたものの四十年以上も邦訳されてこなかった。近年、日本では福祉や知的障碍の文脈で捉えられることの多いアール・ブリュットだが、本書を通じてその営みが狂気を内包したものであり、転覆の思想を孕んだ芸術であったことを強く印象付けるだろう。

 精神医学の変革が起きていた時代背景にあって、テヴォーは文化的芸術と精神医学の規範に対する強烈な抵抗をアール・ブリュットの無意識に読み取り、社会体制批判としての「アナーキー美学」、また文化人類学的な視座とともに精神分析を行う視点が、本書の醍醐味と言える。しかし、アール・ブリュットが定義とは無関係であるとされるにもかかわらず、本書では明晰に構造的視点から記述されているということをどう考えればよいのか。…続きを読む

どんな世代でも読める、「ロック(ンロール)」にまつわる名エッセイ集

――「66枚のレコード」は、「僕を作った」だけではない
評者:上村寿幸

 主にビートルズについて長年書き続けてきている松村雄策氏の最新エッセイ集である。内容はタイトル通りで、「僕(松村氏)を作った66枚のレコード」がその発売年順に並んでいる。一枚目は一九五六年の『エルヴィス・プレスリー登場!』で、最後の六六枚目は一九八〇年のジョン・レノン&ヨーコ・オノ『ダブル・ファンタジー』である。この間、ざっと四半世紀。この時間は、プレスリーの登場とともにロックンロールが(ほぼ)始まり、ジョンの死によって(ロックンロールならぬ)ロックが(一旦の)「終わり」を迎える時間に相当するし、かつ著者の松村氏が(一九五一年生まれだから、プレスリーはリアルタイムではないにしても)ロックと出会い、自分の「道」を決定づけられた年月でもあり、なおかつ、「レコード」の全盛時代でもある。だから、本書に登場する六六枚のレコードは、松村氏を「作った」のであり、ロックを「作った」のであり、レコード(という「芸術作品」のみならず、その)産業を「作った」のだと言えるだろう。

 ざっと目次を眺めてみてほしい。ビートルズのアルバムと、ビートルズ解散後の彼らのアルバムが(プロデュース関連のものなども含めればもっと多い)、約四分の一を占めている。そこに、例えばウォーカー・ブラザーズの『ダンス天国』や、『ザ・スパイダース~ファースト・アルバム』、寺内タケシとザ・バニーズ『正調寺内節』、ザ・フォーク・クルセダーズ『紀元貮阡年』といった、この手の本ではあまり見かけない(かもしれない)アルバムも散見される。それは、「ロックであっても、正史は疑ったほうがいいだろう」という松村氏の姿勢に由来している。…続きを読む