紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

1949年創刊。硬派な人文書からホットなサブカルチャーまで紹介する週刊の書評新聞「図書新聞」とe-honのコラボ企画!

「図書新聞」の紙面で紹介した書評や、対談記事をご紹介します。【週1回更新】
取り上げる本や評者を厳選し、確かな見識で深く掘り下げた書評は「読み応えアリ」です!
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 ◆ 3311号(7月8日発売号掲載)

暗い夜を歩いて

――七〇年代を駆け抜けた漫画、音楽、文学という懸け橋
鼎談:鈴木翁二、加藤典洋、福間健二

 ■漫画家・鈴木翁二の久々の新刊が刊行された。いつかの記憶を揺さぶられるただならぬ詩情をまとった作品世界はいまだ多くの読者を魅了し、新たな読者を増やしてやまない。刊行にあわせて開催された原画展のために上京した鈴木翁二氏に、同世代の文芸評論家・加藤典洋氏、詩人で映画監督の福間健二氏をむかえて行われたトークイベントをここに採録する。(6月1日、荻窪・本屋Titleにて)

 ■長いヒゲと暗い夜

 加藤 七〇年前後は表現全般のなかで、当時、一番自分にしっくりくる書き手がぼくの場合、「ガロ」に書いていた安部慎一の漫画でした。彼の漫画が命綱だった時期があります。安部慎一と鈴木翁二と古川益三が「ガロ」の三羽烏と呼ばれていた頃ですね。鈴木翁二さんの漫画も同じくらいに好きでした。…続きを読む

誰も彼もが切岸で固有の生を踊る

――いわば諏訪哲史版文体博覧見本市
評者:大和志保

 ブウウーンン。…スチャラカ、チャカポコ、チャカポコ、チャカポコ。…とある年明け、明けましての言祝ぎも打っ棄り、下痢に苦しむその時とばかりに発心もしくは発疹せるスワ氏、阿呆陀羅般若腹イタ心経を自ら誦し、または縋ったのである。「まーかん、ほんにー、腹いってゃぁー、しんどー。寒時(かんじ)、大忙殺、行水、不安や、腹(はーら)ー、いってゃー。」重症、兼業、本、買い、請う、同エッセー、喰うや喰わず、シャーリーズ・セロン式、WHO? 胃医? …と、どこまでも引用かましたくなる調子の良さ、意味を剥落させた無意味(というよりは不意味)の文字列が、何となれば抑揚は般若心経そのままに、どういう訳かガチの名古屋弁で語られていること(だけ)はくっきりと分かる、という離れ技、イヤイヤめでたい正月からまーかん(もうあかん)とか言うなよオイ、要するに発語された音としての言葉の振舞いのアサッテが、ほぼほぼすべてがここにある、のではないでしょうか諸君!……ブウウーンン…。…続きを読む

「らい」に対する差別と部落差別に向き合ってきた著者の半生の記録

――日本のハンセン病史であると同時に、部落解放運動史でもある一書
評者:川上 登

 ハンセン病差別と部落差別――この二つの差別と直面し、向き合ってきた著者の、半生の記録がついに上梓された。著者は福岡の小学校、高校の教員、九州産業大学教授などの教職のほか、福岡県同和教育研究協議会会長などを歴任した。一九二四年生まれ、今年で九三歳。広く知られる『解放を問われつづけて』(一九七四年)をはじめ、数多くの著作を上梓してきた。本書は著者が九〇歳を越えてまとめた一冊で、ハンセン病回復者の家族から見た日本のハンセン病史であると同時に、部落解放運動史でもある。それらが不可分のものであるところに、本書の特徴がある。「らい」に対する差別と部落差別という、二つの差別を抜きにして「私の人生はありえなかった」とは、冒頭にしるされた著者の言葉である。そこからも、本書が稀有な記録たるゆえんがうかがえる。…続きを読む