紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

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「図書新聞」の紙面で紹介した書評や、対談記事をご紹介します。【週1回更新】
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 ◆ 3313号(7月22日発売号掲載)

根深い社会病理

形を変えて浸透しつつある「弱者排除」傾向への警鐘と警告
評者:石渡和実

 2016年7月26日。今、思い出しても震撼とさせられる事件が起こった。相模原市にある津久井やまゆり園で、入所者19名もの命が奪われ、27名が負傷するという「相模原障害者殺傷事件」である。1時間も経たない間に多数の死傷者を出し、容疑者がその施設の元職員であったこと、衆議院議長宛てに犯行予告の手紙を渡し、ほぼその通りに実行されたことなど、まさに「想定外」の事件が起こってしまった。

 評者は、神奈川県が設置した事件の検証委員長を務めた。その体験もあり、立場の異なる6人が事件について論じた本書、『生きたかった』を引き込まれるようにして読み終えた。執筆者6人とは、視覚障害者として日本の障害者運動をリードしてきた藤井克徳氏、日本のヘレンケラーとも呼ばれる盲ろうの東京大学教授福島智氏、精神科医として多岐にわたる活躍を展開する立教大学教授香山リカ氏、福祉分野の自治体研究を専門とする元日本福祉大学教授石川満氏、障害児・者の人権を追及する金沢大学名誉教授井上英夫氏、そして、日野市職員としての経験をもとに地方自治研究を続ける池上洋通氏、である。また、「当事者・家族・支援者の声」として、12人がコラムで論じている内容もずしんと胸に響く。…続きを読む

手塚治虫マンガの原点は 昆虫採集にあった

――手塚は小学生のときからすでに天才だった
評者:大野秀樹

 手塚治虫の大ファンである編著者らは、二〇一六年四月、手塚プロダクション資料室長で「手塚マンガの生き字引」と呼ばれた森晴路が急逝したときに危機感を覚えた。〈「手塚治虫が歴史になってしまう」。人口に膾炙している手塚治虫伝説ではない、少年時代の手塚治虫に関する証言をそのまま記録する本を作りたいと思いました。今まで書いた原稿を整理する作業を急ピッチで進めました〉。これが、本書を生んだきっかけである。

 主な証言者は、手塚の実弟の浩、実妹の宇都美奈子や、手塚が在校した大阪府池田師範学校附属小学校・大阪府立北野中学校の同級生、同窓生、および手塚プロのスタッフらだ。手塚の同級生は米寿を迎える年齢であったが、この年代のヒトたちは、自分の生きてきた時代や戦争体験が活字になることにものすごく執念を燃やしているようで、取材はスムーズに進んだ。エピソードをいくつか紹介したい。…続きを読む

小津安二郎の作品と人、そして時代

――小津は理念を優先させた
評者:名取弘文

 小津安二郎に関する評論、研究書はたくさん出版されている。小津本人の日記も刊行されている。

 ここに新たに「芸術家として、認識者として」と副題をつけた『映画監督小津安二郎の軌跡』が出版された。小津ファンの私は、どんな小津論が展開されているのかと急いで手に取った。

 著者は一九五四年生まれ。会社員時代は主として経理関係の業務に携わったとある。二〇一〇年退職とある。貯め込んでいたことを一気に表わしたのだろう。…続きを読む