紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

1949年創刊。硬派な人文書からホットなサブカルチャーまで紹介する週刊の書評新聞「図書新聞」とe-honのコラボ企画!

「図書新聞」の紙面で紹介した書評や、対談記事をご紹介します。【週1回更新】
取り上げる本や評者を厳選し、確かな見識で深く掘り下げた書評は「読み応えアリ」です!
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 ◆ 3314号(7月29日発売号掲載)

生きる権利は戦い取るもの

抵抗の戦線をいかに作り出すのか――そのためのある視点
ケン・ローチ監督『1945年の精神』
評者:小野沢稔彦

 この国の戦後民主主義教育は――その体系そのものもまた、ここで問われる自由経済政策の強行によって抹殺された――、イギリスという「国家」を象徴する形容として「ゆりかごから墓場まで」ということを自明のあり様として教えてきた。しかしここには、①第二次大戦以前のイギリスにおいて、そうした民衆の諸権利があったか、なかったかを問うことはなかったし、②あの第二次大戦――帝国主義国家間の植民地戦争――がなぜ起こり、③その結果、戦勝国においても民衆の絶大な悲惨さを招来したこと、④その上に、戦後の民衆の諸権利の獲得があったこと、を教えることはなかった。つまりこの国の民主主義教育体系は、民衆自身の歴史への反省にたって、イギリスにおけるあらゆる民主的権利の獲得は民衆の犠牲と、それに抗する戦いによって〈獲得〉されたものであることを教えなかった。ただ自明のそれとしてあることを当然のように教えてきたのだ。『1945年の精神』は、この国の戦後教育の虚妄をまず照らし出す。そして現在、戦後民主主義は抹殺され、民衆の抵抗の戦線を作り出すことのなかったこの国では、その死の後にきわめて低劣で最低のファシズムの時代に突入した。このことは、この国だけでなくイギリスにおいてもまた、民衆の諸権利の剥奪の末にあらゆる地平で分断国家への道が掃き清められ、民衆はそのなかを歩んでいるのである。…続きを読む

書店員の記憶、経験、直感を駆使した売場がリアル書店の魅力を生み出す

――書店での日々の仕事がより一層いとおしいものに感じられる
評者:楫一子

 本書は「NR出版会新刊重版情報」内の連載記事として掲載された書店員による店頭からの声を書籍化したものである。私自身、日々の仕事の合間にこの連載を読み、各々の現場で奮闘する同志の姿に初心を思い出しながら奮い立っている。

 書店論を扱った本は数多く刊行されているが、本書を通して私たちは理想論でもなく、何ら着飾ってもいない書店現場のありのままの姿を見ることができる。序文で新泉社の安喜健人氏が「現場の声を聴きたい」という点を特に意識していたと綴っているが、それが見事に一冊の形となっている。…続きを読む

作者と読者が共犯関係を結ぶこと

――一冊の書物は無限のひとり遊びを担保する永遠の宝箱になった
評者:八木寧子

 ないはずの記憶が共鳴した。

 少年の遊びに熱中し、「ゴテゴテした彫金細工がほどこされた銀のオルゴール」で「トロイメライ」を聞いたことも、「異国の香り」のする「土産品」である「ケバケバしい原色の水着の美女のトランプ」で「ゲーム」をしたこともなく、「小さい貝ボタンが飾りについていて、両側には三本ずつの細いピンタック、ギャザーになっているスカートの裾は小花模様のレースの縁飾りのある幅広のフリル」という「袖無しでU字型に胸の開いたシミーズ」なども、およそ目にしたこともなかった評者の、ないはずの記憶が共振したのである。…続きを読む