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紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

『回想 1925−2010』

ジョレス・A・メドヴェージェフ/著 ロイ・A・メドヴェージェフ/著 佐々木洋/監訳 天野尚樹/訳

現代思潮新社

二〇世紀ソ連・ロシアを生きぬいたメドヴェージェフ兄弟の類まれな回想録

──文学的香気に満ちたまことに魅力的な歴史ドキュメント
評者:高田広行(西洋史研究)

 ジョレスとロイのメドヴェージェフ兄弟については、贅言を要しないだろう。ジョレスは『ルイセンコ学説の興亡』や『ウラルの核惨事』で知られる生化学者であり、ロイはソ連の内部からスターリニズムの構造を分析し、世界に衝撃を与えた『歴史の審判にむけて』(邦訳書名『共産主義とは何か』)の著者として広く知られる。本書は二人の手になる回想録であり、ソ連・ロシアの同時代史である。

 一九二五年生まれの一卵性双生児である二人の半生は、言論の自由を守り実践する歩みであり、スターリニズムとの闘いの歴史であった。赤軍軍政アカデミーの哲学講師だった父親は、スターリンの大テロル渦中の一九三八年に逮捕され、モスクワのブトゥイルカ監獄で長期にわたって拷問を受けたあと、極東のコルィマのラーゲリ送りとなり、死亡した。母と二人の子は宿舎を追われ、転々とした後ようやくロストフ・ナ・ドヌーに身を寄せたが、独ソ戦でトビリシへの避難を余儀なくされる。こうした経験は、のちに六〇年代以降に異論派と呼ばれる一群の人びと、ソ連内で言論の自由や民主化を求める運動の担い手となる人びとに共通するものであった。粛清と戦争、そしてスターリン死後、五六年にフルシチョフが行なったスターリン批判が、彼らソヴェト新世代の人生を決定づけたのである。

 メドヴェージェフ兄弟はソルジェニーツィンやサハロフとならんで、異論派を代表する人物として知られるが、本書の魅力の一つは、実に多様な異論派たちの姿を紹介したことであり、異論派の諸相を直に知る当事者、メドヴェージェフ兄弟の思想と行動の書であるという点だ。兄弟のうちロイはソ連共産党員であり、ソ連の民主化を追求しながら、異論派のなかでも西欧派と呼ばれるサハロフや、スラヴ派のソルジェニーツィンらとは考えを異にした。本書に記述のあるとおり、ソルジェニーツィンやサハロフをはじめ異論派の多くが、立場や視点を急激に変えていったのに対して、メドヴェージェフ兄弟の姿勢は変わらなかった。変わらないがゆえに、スターリン主義者からだけでなく、異論派からも批判や非難、中傷まで受け続けた。

 ロイ・メドヴェージェフは『歴史の審判にむけて』で、スターリン批判後のソ連内外の社会主義運動に大きな影響を及ぼしたが、急進的な革命ではなく漸進的な進化を支持する点で、のちの八〇年代の党内改革派のペレストロイカに近い考えをいちはやく切り拓いた。ジョレスは非党員であり、党を除名されたのちも国外にとどまり続けたロイとは違って、亡命を強いられた。異なる道のりを歩んだ二人だが、ともに言論や学問、表現の自由のために闘った点では共通し一貫していた。二人の連名で数多くの問題提起の書を世に問うてきたことも頷ける。本書はそんな一貫した二人の半生の証なのだ。


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