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紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

◆ 3125号(8月31日発売号掲載)

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『戦争社会学の構想 制度・体験・メディア』

福間良明/編 野上元/編
蘭信三/編 石原俊/編

勉誠出版

「殺す/殺される」前に

――戦争と社会の関係を理性的に考える素地を早急につくっておかなければいけない
対談:福間良明×野上元×石原俊

▼「戦争」と「社会」の関係は、いま、まったく歓迎されざるかたちで、もっとも「ホットな」問題の一つになってしまった。そんな折も折、『戦争社会学の構想』(勉誠出版)が上梓された。本書をめぐり、同書編者でもある福間良明氏、野上元氏、石原俊氏に鼎談していただいた。(鼎談日・8月9日、東京・神田神保町にて。須藤巧〔本紙編集〕)

◆戦争をめぐる状況の変化のなかで

福間 この『戦争社会学の構想』という本を編むことになった一番のきっかけは、去年の三月に開催された戦争社会学研究会でのシンポジウムです。戦争を社会学的に扱うための方法論などについて討議しました。その議論が大変に刺激的だったので、何らかのかたちで文字に残しておきたいと思いました。それから、私の内在的な意図を言えば、社会学系の学会で戦争にまつわる報告などを聞いていると、巧妙に戦争そのものから距離をとっているというか、史的な事実がどうであるのかをかいくぐっているような気がして、ときどき引っかかりを覚えることがあります。記憶研究なりライフストーリー研究なり、それ自体として見れば一定以上の水準に達しているのでしょうが、見方を変えればそこに閉じてしまっていて、周辺の知見が生かされていないように感じるときもあります。そのあたりの布置を、一度整理しておいたほうがいいのではないかという印象を数年前から持っていました。そのひとまずの結果が本書というわけです。…続きを読む


『反ユダヤ主義とは何か 偏見と差別のしぶとさについて』

ヴォルフガング・ベンツ/著
斉藤寿雄/訳

現代書館

ユダヤ人への敵意に息づく「無意識的な確信」と偏見

――今日まで受け継がれてきた反ユダヤ主義の本質にメスを入れる
評者:高田広行(西洋史研究)

 本書の著者ヴォルフガング・ベンツは、ドイツにおける反ユダヤ主義とホロコースト研究の拠点であるベルリン工科大学反ユダヤ主義研究センターの所長を務めた研究者である。本書は長年の重厚な研究蓄積をもとに、現在も根強く存在するユダヤ人への敵意の原因、機能、影響などを考察し、具体例を織り込みながら反ユダヤ主義の本質にメスを入れた一書である。

ユダヤ人への敵意は、「神殺し」にはじまるキリスト教徒の宗教的偏見にまで遡る。それは人類史上最も古い、宗教的かつ社会的、文化的、政治的偏見とされるが、中世の風説や「儀式殺人」などの偏見は、反ユダヤ主義の遺産として今日まで息づいている。宗教的な偏見は一九世紀になって、人種主義的反ユダヤ主義へと変貌し、ナチズムのユダヤ人絶滅政策とホロコーストに行き着いたのである。

 ホロコーストは、歴史的な偏見とユダヤ人への敵意なしには考えられない。しかも、反ユダヤ主義が一般市民に存在し、機能したがゆえにホロコーストは可能となった。背景には、長らく受け継がれ、伝統化したユダヤ人についての固定観念があった。…続きを読む


『東京放浪記』

別役実/著

平凡社

創作の秘密を平明に語る

――長年にわたり引きずってきた、旅人の、よそ者の感覚
評者:岡田素之(ドイツ文学・表象文化論)

 よく知られていることだが、別役実氏は、いわば喫茶店を梯子しながら執筆活動を行ってきた。むかし港区の東京土建一般労働組合の書記局に勤めていた当時から、この習慣は始まり、そこから『象』や『マッチ売りの少女』のような初期の名作が生まれたのだった。

 やがて一本立ちの劇作家になってからも、やはり勤め人のように「行ってきます」と言って家を出る。カバンには弁当の代わりに原稿用紙と万年筆を、あるいは推理小説を忍ばせ、電車でさりげなく出かけた街をぶらぶら歩いて、気に入った喫茶店に腰をおろす。そしてコーヒーをすすり、タバコを何本かくゆらしたあとで、おもむろに原稿用紙をひろげて書き出す。執筆につまると、また別の地域の喫茶店に移り、その続きを書く。当然、喫茶店から喫茶店へと移動する過程で、氏は街の、路上の、どこか怪しげな観察者または遊歩者に変身する。ある時期から別役作品の舞台設定は、往々にして街のひなびた路上、しかも「電信柱が一本。夕暮れ。風が吹いている」というト書きで始まるようになったのも、不思議ではない。…続きを読む