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紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

『ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか』

エリック・ブライシュ/著
明戸隆浩、池田和弘、河村賢、小宮友根、鶴見太郎、山本武/訳

明石書店

「法規制か否か」を超えて

――「レイシズム」は民主主義の外部であるのか、そして何を「レイシズム」と呼ぶのか
鼎談:明戸隆浩×山本武秀×山崎望

▼昨年来、「流行語」の感さえある「ヘイトスピーチ」。関連書籍も刊行され始めているが、まだまだ周知度は低いのかもしれない。そんな折、目配りのきいた翻訳書『ヘイトスピーチ』(明石書店)が上梓された。本書を携えて「街頭」へ出よう。訳者の明戸隆浩氏、山本武秀氏と、民主主義の専門家である政治学者の山崎望氏に鼎談していただいた。(鼎談日・3月6日、東京・神田神保町にて。須藤巧・本紙編集)

■レイシズム、レイシストは、自由民主主義と相容れることが可能なのか?

明戸 本書を翻訳する直接的なきっかけになったのは、去年二月からの反レイシズムの動きです。二月九日に「レイシストをしばき隊」が登場し、一七日には「仲良くしようぜ」のプラカードを掲げる活動が始まった。そういう中で自分自身の役割についても考えることになったのですが、その一つとして、まずはヘイトスピーチに関する文献情報を集めてみようと。本書の原著を見つけたのもそのときだったのですが、当初は翻訳することまでは考えていませんでした。目次を見ただけで良書であることはすぐにわかって、でもまさか自分が訳すとは思っていなかった(笑)。とはいえ間違いなくいま日本で訳す意義のある本だとは思ったので、「この本、誰かが訳したらいいのに」的なことをツイッターでつぶやいたのですが、そうしたら関西学院大学の金明秀さんから「言いだしっぺ、よろしく」という感じで軽く言われ、「そうか、自分たちで訳せばいいんだ」と。その後も、去年の前半の反レイシズム運動と並走するようなかたちで、翻訳作業を進めてきたという感じです。

 しかしより大きな問題意識としては、ここ一年の「流行の」ヘイトスピーチの話というだけではなく、もう少し長いスパンでの日本社会の変化を念頭に置いて、ヘイトスピーチにかかわるこれまでの各国の経緯をきちんと紹介しておきたいというのがありました。僕はこの一〇年ほどのあいだに日本におけるレイシズムや排外主義の問題は新しい段階に入ったと思っているのですが、その象徴的な位置にあるのが在特会(在日特権を許さない市民の会)ですね。そういう中で、以前は「海外事情の紹介」の際にしか必要とされなかった「ヘイトスピーチ」という言葉が、日本の現状を把握するための言葉として広まることになった。決して喜ばしいことではありませんが、もし在特会的なものが日本になかったとしたら、この本のもつリアリティを日本で伝えることは難しかったでしょう。

山本 私は、かねてより在特会らの活動をウオッチしてきました。その中でひどい罵詈雑言が繰り広げられる新大久保のあのようなひどい在特会らの行動をどうやって止めることができるのか考えていました。そして、実際に現場に足を運んでプラカードを掲げたりするカウンター活動に参加する中で、本書翻訳の声がかかりました。したがって、私個人としては、今回の翻訳はカウンター活動の一環として捉えています。まずはそれを申し上げておきます。

明戸 山崎さんが本書をどう読んだか、気になります。

山崎 日本で「ヘイトスピーチ」が可視化されるまでに、タイムラグがあったと思います。昨年の二、三月あたりの新大久保などでの在特会を中心とする行動に関して、都議会や国会、政治家の反応が鈍いと感じていました。私の中でレイシズム、レイシストという言葉で問題を捉え損ねていたということもありますが、これは非常に大きなインパクトを持った政治問題だと直感し、議会で議論が活発化し、社会問題として広く関心を持たれるだろうと思っていました。しかし、そうではなかったのが意外でした。また、当時の大手マスメディアの反応の薄さに比べ、SNSや街頭での反応にはすごいものがありました。その後、カウンター活動に遅れるかたちで国政においてもヘイトスピーチに関する勉強会が開かれたり、国会で質疑がなされるなど、問題視されるようになりました。そうしたタイミングで本書が出た。本書からわかることは、ヘイトスピーチやレイシズムに対して、諸外国が同じような取り組みをしているわけではないということです。また、取り組みの歴史的展開もかなり変遷がある。そうした各国の歴史や差異を考察することは学術的にも意義があると思いますが、本書はそれを超えて、法規制がよいのか、法規制をするのであればどういうやり方が望ましいのか、各国の事案を非常に丁寧に追っていて、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムを取り締まろうとする政策形成の参照点になりうる本だと思います。本書は、かたちとしてはアカデミックな本だと思いますが、内容としてはいわゆる「当事者」やアカデミズムの範囲を明らかに超えたインパクトを持ちうる画期的な本でしょう。

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