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紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

◆ 2013年上半期読書アンケート【3119号(7月13日発売号掲載)】

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評者◆澤田直ほか46名

▼2013年上半期に出版された書籍・雑誌等の中から印象に残った3点を選んでもらい、今回、46名にアンケートを寄せていただきました(順不同)。〔編集部〕

◆高橋敏夫(文芸評論)

1 目取真俊『魚群記 目取真俊短篇小説選集1』(影書房)

1は、毎月の雑誌で新作を探すのが癖になってひさしい(もちろんこれはわたしだけではない……)目取真俊の、単行本未収録作品をふくむ待望の選集(全三巻で発表年代順)だ。第一巻に収められた「一月七日」は、壮大かつ空虚な自粛へ、オキナワの「死」を鋭くさしこむ秀作。この選集をながめつつ、目取真俊論にとりかかろうと思う。

2 小嵐九八郎『天のお父っと なぜに見捨てる』(河出書房新社)

2は、時代・歴史小説界の「一九七〇年組」を代表する小嵐九八郎の大作。小嵐は、一見八方破れだが、偶像破壊にけっして満足しない。今の人ならざる人の創造、今の社会ならざる社会の創造がある。すくなくとも、創造の手前の歯軋りからうまれる炸裂的な夢がある。この作品では、ユダこそがそんな夢の黒い実行者となる。

3 玄侑宗久『光の山』(新潮社)

3は、福島の地で、原発震災をとらえつづける玄侑宗久の短篇集。一つひとつの作品に震災が別の様相でうかびあがった。三〇年後の福島で放射能をあつめた山は不気味に光りはじめる。能天気花形社会学者結社による明るく壮大な「原発・観光地計画」を、短篇小説にもられた禍々しいイメージが瞬殺する。

4 谷口基『戦後変格派・山田風太郎――敗戦・科学・神・幽霊』(青弓社)

4は、カタカナ用語によってしか発想も展開も可能でない衰えきった研究者共同体から、逸脱をつづける谷口基の最新論集。山田風太郎という異形の変格派が、戦後という時空に確固とした位置を定められることで、異形の変革派としての姿をあらわした。ようやく始まった大衆文学研究の手本となるにちがいない。

『目取真俊短篇小説選集 1』

目取真俊/著

影書房

『天のお父っとなぜに見捨てる』

小嵐九八郎/

河出書房新社

『光の山』

玄侑宗久/著

新潮社

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◆飯城勇三(ライター)

1 阿部共実『空が灰色だから 5巻』(秋田書店)

漫画だが、この作者の超絶技巧は、小説ファンにこそ読んでほしい。「さいこうのプレゼント」の仕掛けなど、ミステリファンでないと気づかないのでは? また、オムニバス形式ではあるが、各短篇間に隠されたつながりもあるので、1〜4巻も併せて読んでほしい。

2 法月綸太郎『ノックス・マシン』(角川書店)

こちらも作者の超絶技巧を味わえる短篇集。特に「論理蒸発」は、クイーン論をSF小説に変換するという荒技を見せてくれる。――まあ、「厨二病クイーンマニアの妄想小説」という読み方もできないわけではないが。いずれにせよ、主人公が羨ましいことは間違いない。

3 江藤茂博・山口直孝・浜田知明編『横溝正史研究 5』(戎光祥出版)

私が寄稿したのは『4』だが、残念ながら、オススメは草稿を考察したこちらの方。

『空が灰色だから 5』

阿部共実/著

秋田書店

『ノックス・マシン』

法月綸太郎/著

角川書店

『横溝正史研究 5』

江藤茂博・山口直孝・浜田知明/編

戎光祥出版

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◆天野知香(美術史/視覚表象分析)

1 竹村和子『彼女は何を視ているのか――映像表象と欲望の深層』(作品社)

映像表象の分析と彼女の理論が一体となったとても竹村さんらしい、見事な本。頁をめくる度に、彼女の鋭い知性と豊かな想像力に裏打ちされた、比類ない議論が息を吹き返し、語りかける。没後一周忌に出版されたこの本について、竹村さんは「美しい本を作ってほしい」と望んだとあとがきで記されているが、ガルボの表紙を伴った本書の外観のみならず、ここにおさめられた彼女の言葉それ自体がこの上なく「美しい」本を作り上げていると言うべきだろう。

2 北原恵編著『アジアの女性身体はいかに描かれたか――視覚表象と戦争の記憶』(青弓社)

戦時下の女性画家の掘り起こしや、日本統治下の植民地の女性表象、「慰安婦」表象といったテーマについて、いずれも力のこもった論考が集められている。こうした研究がいわゆる「主流」の美術史において注目されないとしたなら、それは美術史研究を貧しくすることに他ならない。

3、テッサ・モーリス=スズキ『批判的想像力のために――グローバル化時代の日本』(平凡社ライブラリー)

2002年に出版されたものの文庫化なので、ここで扱うのはふさわしくないかもしれないが、岩崎稔の解説にもある通り、10年以上たっても本書の前提とする日本の状況は全く変化しないどころか、著者の取り上げた論点は現在いっそう前景化し、それに対する著者の考察の重要性はさらに切実さを増している。

『批判的想像力のために グローバル化時代の日本』

テッサ・モーリス=スズキ/著

平凡社

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◆鈴木創士(フランス文学)

1 間章『間章著作集T 時代の未明から来たるべきものへ』(月曜社)

どうしてわれわれの評論の現状はこれほど惨憺たるものになってしまったのだろうか。音楽評論しかり、文学評論しかり、美術評論しかり。当時、私は間章の忠実な読者であったなどとは到底言えないが、それでも彼の文章を、外国人を含めて他の書き手たちのものと同じように読んでいたし、読むことができた。いまでも、70年代初頭のフランスの歌手ブリジット・フォンテーヌのライナーノーツが忘れられない。

2 シギズムント・クルジジャノフスキィ『神童のための童話集』(東海晃久訳、河出書房新社)

異様な本である。それだけではない。通常とは別の意味で「重厚な」ロシア文学である。一八八七年生まれのロシアの作家である著者は、「不遇な作家」であったようだが、たぶんロシア・アヴァンギャルドの世代とさほど遠くはない時代を生きていたとはいえ、たぶんこの本は「いましか」読むことのできない本なのだと思う。なぜ今なのか? それはひとえに訳者の力量である。他のわれわれの外国文学者は、フランス文学を含めて、いったい何をやっているのか!

3 季村敏夫編・解題『神戸のモダニズムU』(ゆまに書房)

神戸の詩誌の復刻である。竹中郁や小林武雄のそれも含まれる。神戸の詩人たちが一斉検挙された弾圧事件「神戸詩人事件」に対する編者季村氏の詩人としての並々ならぬ情熱には、僭越ながら、そして陰ながら感服していたが、その編者あってこその大仕事である。

『間章著作集 1』

間章/著

月曜社

『神童のための童話集』

シギズムント・クルジジャノフスキィ/著
東海晃久/訳

河出書房新社

『コレクション・都市モダニズム詩誌 27』

和田博文/監修
季村敏夫/編

ゆまに書房

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◆小倉英敬(ラテンアメリカ思想史)

1 佐野誠著『99%のための経済学【理論編】――「新自由主義サイクル」、TPP、所得再分配、「共生経済社会」』(新評論)

1において著者は、前著である『99%のための経済学【教養編】』に続いて、新自由主義を正当化する言説を批判する一方で、「共生経済社会」のあるべき姿を構想する。そして、「真に必要なのは、世界全体で内需主導型の経済構造に転換していくことである」、「実質賃金の引き上げが成長につながるような体質を定着させなければならない」と内需主導型のマクロ経済運営の必要性を強調し、この内需主導型と、内橋克人が提唱してきた「FEC自給圏」を中心に考察して、新自由主義に対する対案を提示している。新自由主義への対案が「内需主導型」であるとする点で著者の主張に共感する。

2 アントニオ・ネグリ/マイケル・ハート『叛逆――マルチチュードの民主主義宣言』(水嶋一憲・清水知子訳、NHKブックス)

2は、両著者が『〈帝国〉』『マルチチュード』『コモンウェルス』等において論じてきた「マルチチュード」の集団的在り方を、2011年に発生したスペインの「M15運動」やニューヨークの「ウォール街占拠運動」に見られた自然発生的でリーダー不在の民衆運動に見ることで、このような運動を形骸化した代議制民主主義に対する選択肢として提起した書である。また、ラテンアメリカの脱「新自由主義」諸政権と社会運動との関係に関しては、「協働的ないし敵対的な関係性を保つこと」で、「政府=統治のメカニズムが協治のプロセスへと生成変化せざるをえなくなる」と、政府の行動の指導的な側面を変容させる働きが始動することになったと指摘している。現代的な新しい現象をどのように位置づけるのか、示唆に富む指摘である。

3 セルヒオ・ラミレス『ただ影だけ』(寺尾隆吉訳、水声社)

3は、ニカラグアのサンディニスタ(FSLN)政権(1979〜1990年)において副大統領の職にあったセルヒオ・ラミレスが、1995年にFSLNを離脱し政治からも引退してから7年後に執筆した政治色の強いリアリズム小説の邦訳である。FSLNによって銃殺された独裁者ソモサの側近であったコルネリオ・ヒュックをモデルとしたアリリオ・マルティニカの最後の日々がフィクションと史実の倒錯を引き起こす手法で描かれている。日本で紹介されることの少ないラテンアメリカの作家の作品を紹介し続けている訳者の尽力に敬意を表したい。

『叛逆 マルチチュードの民主主義宣言』

アントニオ・ネグリ/著
マイケル・ハート/著
水嶋一憲・清水知子/訳

NHK出版

『ただ影だけ』

セルヒオ・ラミレス/著
寺尾隆吉/訳

水声社

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◆中村邦生(作家)

1 ジョイス・キャロル・オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』(栩木玲子訳、河出書房新社)

わざわざ「悪夢」と記してある小説など読む気にならないが、本書は例外。秀逸なボクシング論(『オン・ボクシング』)に魅了されて以来、いつも気になる女性作家だから。7中短篇それぞれの恐ろしく、えぐい物語の味わいと優雅な書法には格別な読みの愉楽がある。

2 宇野邦一『アメリカ、ヘテロトピア――自然法と公共性』(以文社)

現代フランス文学・思想を専攻する著者によるヘテロトピアとしてのアメリカ文明論。「法外な生命力」(D・H・ロレンス)と「政治的公共性」(アーレント)を軸として、アメリカ的葛藤にあらたな思索を進めた、〈外部の思考〉のスリリングな実践の書だ。

3 中川コ之助『髑髏の世界――一休宗純和尚の跡をたどる』(水声社)

一休のエロティシズムを自在に論じた永田耕衣の評論の記憶を重ねつつ読み進めたが、たちまちそれらは背景に退いた。本書は精緻な読みと慎重な仮説で資料を読み解き、一休の虚像と実像を剔抉する。〈仏界、入り易く、魔界、入り難し〉と、まさに入り難い「魔界」を生きた一休像に小説的興趣すら覚えた。

『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢 ジョイス・キャロル・オーツ傑作選』

ジョイス・キャロル・オーツ/著
栩木玲子/訳

河出書房新社

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◆柏木博(デザイン評論)

1 デヴィッド・ハーヴェイ『反乱する都市――資本のアーバナイゼーションと都市の再創造』(森田成也・大屋定晴・中村好孝・新井大輔訳、作品社)

1は、一九六〇年代末から七〇年代にかけて、アンリー・ルフェーブルが行った産業都市批判(都市への権利)をいわば再構築するものだといえる。これまでの都市批判には、資本のダイナミックな動きを都市に結びつけて論ずることがほとんどなかった。そのことを本書は、実に説得的に実践している。

2 鈴木博之『庭師 小川治兵衛とその時代』(東京大学出版会)

2は、近代の造園家(庭師)としてもっともよく知られる小川治兵衛の庭を、そのクライアントの精神性とともに時代とかかわらせながら読み解いており、「庭論」として、広がりと奥行きの深いものとなっている。治兵衛の最初の作品、山縣有朋邸の「無隣庵」が、通常の作庭のように石を中心としていないのはなぜか、ということをひとつとってみても鈴木の解読は魅力的である。

3 高階秀爾『ニッポン現代アート』(講談社)

3は、講談社の月刊PR誌『本』の連載をまとめたものである。この連載は、現在も続いている。まさに現在を表象する作品を著者がセレクトし、それについて短い批評を付している。時代の意識がどこにあるのかを、速度感のある言葉で読み取り刺激的な本となっている。

『反乱する都市 資本のアーバナイゼーションと都市の再創造』

デヴィッド・ハーヴェイ/著
森田成也・大屋定晴・中村好孝・新井大輔/訳

作品社

『庭師小川治兵衛とその時代』

鈴木博之/著

東京大学出版会

『ニッポン現代アート』

高階秀爾/

講談社

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◆井川博年(詩人)

1 長田弘『アメリカの心の歌』(みすず書房)

1ヴェトナム戦争後の七十年代に、北米アイオワ大学に招かれた詩人は、車で全米各地を廻る旅を続ける。ミシシッピー河を下り、ジャズを聴き、ゴスペルを聴き、カントリーソングを聴くと、「アメリカは歌の国だ」と思う。人々のあいだに、アメリカの心を育ててきたのが歌なのだ。目次に載っているミュージッシャンの名前を見ると、私たちが知っている名と知らない名。アメリカは広く、深い。

2 川本三郎『そして、人生はつづく』(平凡社)

2いまの時代、もっとも良質な詩は、こういう日常を語ったエッセイの中にしかない。そのことをしみじみ思い起こさせてくれるのが、川本三郎のこの「独り居の日記」である。本を読み、映画を見る、町を歩く(これらは仕事の内だが)、それに家事もする。妻を亡くしても、人生はつづく。どんな時にあっても、人は生き続けなくてはならない。生活の些事が人を生かす。

3 いとうせいこう『想像ラジオ』(河出書房新社)

3津波に流され、高い木の上に仰向けにとまっている(実は死んでいる)、ラジオのDJ(ディスク・ジョッキー)の奇想天外な語り。「想像ラジオ」は究極の発明だ。全国と天国の皆よ、聴いてくれ。

『アメリカの心の歌』

長田弘/著

みすず書房

『そして、人生はつづく』

川本三郎/著

平凡社

『想像ラジオ』

いとうせいこう/著

河出書房新社

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◆小松美彦(科学史科学論・生命倫理学)

1 濱田武士『漁業と震災』(みすず書房)

かの原発震災を通して露わになった日本の漁業の歴史的な実状を問い、再生の方向を探究した労作。マルクス経済学を基礎に据え、反惨事便乗資本主義、反ネオリベラリズム、反グローバルスタンダード、反大規模化・効率化、反TPP等々の立場に立ち、実証的な検討を徹底しつつ、全体に底流するのは、「多様な個性を備えた人間の尊厳」と「地域ごと個人ごとにある『経済・文化・環境』により形成されてきた人格」の復権への願いに他ならない。以上の意味で、マルクスの超克を目指したものであろう。

2 高草木光一編、佐藤純一・山口研一郎・最首悟著『思想としての「医学概論」――いま「いのち」とどう向き合うか』(岩波書店)

『「いのち」から現代世界を考える』、『一九六〇年代 未来へつづく思想』(いずれも岩波書店)に次ぐ、慶應義塾大学連続講座講義録のいわば集大成。澤瀉久敬の医学概論の根源的考察(高草木)、近現代医学・医療の歴史的総括(佐藤純一)、現代の先端医療と医療制度の批判的検討(山口研一郎)、独自の「いのち学」の展開(最首悟)と、これら四氏による座談からなる。全体として大学闘争の検証を基軸とする新医学概論。

3 福間良明『二・二六事件の幻影――戦後大衆文化とファシズムへの欲望』(筑摩書房)

主として二・二六事件が映画や小説の中でどのように描かれてきたのかを時代背景と関連づけ、国家主義やファシズムが戦後の日本社会でいかに受け止められ評価されてきたのかを学問的に分析した斬新な書。著者みずからも示唆しているように、「変革」「維新」をめぐる昨今の世論形成を顧みる点からも読まれるべきだろう。はたして本書は、中島貞夫監督「日本暗殺秘録」(一九六九年)が復活させた磯部浅一の憤怒と怨念を再復活させたが、それを超える思想とは何か。

『漁業と震災』

濱田武士/著

みすず書房

『思想としての「医学概論」 いま「いのち」とどう向き合うか』

高草木光一/編
佐藤純一・山口研一郎・最首悟/著

岩波書店

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◆石原千秋(日本近代文学)

1 ポール・ド・マン『読むことのアレゴリー――ルソー、ニーチェ、リルケ、プルーストにおける比喩的言語』(土田知則訳、岩波書店)

原書刊行から三〇年以上経った翻訳は、いい点と悪い点がある。言語表現はアレゴリーだから意味が確定できなくて読めない読めないと言いながら読んでいく脱構築的方法が平凡に見えてしまうことは悪い点で、すでに定着した訳語で訳されているので読みやすいのはいい点だ。それほど話題にならなかったのは、こんなところに理由があるのだろう。

2 澁谷知美『立身出世と下半身――男子学生の性的身体の管理の歴史』(洛北出版)

フーコーの性の歴史が訳されて以降、この二〇年ほどのセクソロジーの到達点を示す本だ。戦前の青年たちが立身出世のために「性欲」を身体レベルで管理された実態を暴く。性的に「抑圧」されていたというと女性ばかりが論じられてきたが、青年だってひどかったのだ。「年長の男性による年少者の支配」というフェミニズムが定義する家父長制のみごとなまでの具体化の記録である。

3 岩佐壯四郎『島村抱月の文藝批評と美学理論』(早稲田大学出版部)

言い方は悪いが、西洋思想のパッチワークのようにして構築された島村抱月の文藝批評と美学理論を解きほぐすように読むことで、「島村抱月」固有の文藝批評と美学理論を炙り出す労作である。ガッチリした学術書だが、文章は平易で読みやすい。著者の理解がホンモノだからだろう。

『島村抱月の文藝批評と美学理論』

岩佐壯四郎/著

早稲田大学出版部

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◆佐藤泉(日本近代文学)

 沖縄から、歴史学から批判が出た。が、その前にほかならぬ主催側に疑念や不安があり、「主権回復の日」はそれを払拭するためにこそ開催されたにちがいない。「独立」は、その歴史の文脈に差し戻すべきだろう。
 鄭栄桓『朝鮮独立への隘路――在日朝鮮人の解放五年史』(法政大学出版局)が問題にするのは、講和条約にともなって旧植民地出身者が一方的に日本国籍を剥奪されたということではなく、むしろそのとき朝鮮人が外国人でないことを確定されたという点である。外国人登録令は「臣民」に対する支配手法を維持することで朝鮮人の独立承認を阻むものだった。
 ヴィジャイ・プラシャド『褐色の世界史――第三世界とはなにか』(粟飯原文子訳、水声社)の第一部も大戦後の人々が夢みていた「独立」を幅広く記述している。
 鳥山淳『沖縄/基地社会の起源と相克 1945―1956』(勁草書房)は戦争と区切れなく続いた「戦後」のなか、内在的に生まれた自治の希求を書いている。かつて自分たちはこんな未来を夢みていたのではなかったはず、と思う。
 ジャン=ピエール・デュピュイ『経済の未来――世界をその幻惑から解くために』(森元庸介訳、以文社)、スラヴォイ・ジジェク『2011――危うく夢みた一年』(長原豊訳、航思社)がともに未来の過去である今という錯綜する時間性に触れていた。
 『目取真俊短篇小説選集』(影書房)も加えよう。記憶の作家の文学は、時ならぬ日付の政治について考えるためのなによりの手がかりとなるからだ。

『褐色の世界史 第三世界とはなにか』

ヴィジャイ・プラシャド/著
粟飯原文子/訳

水声社

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◆阿木津英(歌人)

1 『岡井隆詩集』(思潮社)

『岡井隆歌集』と対になって出た文庫版詩集。どういうわけか詩人の詩とは違う感触が言葉にあって、じつはわたしは岡井隆の詩は好きだ。すっと言葉の中に入っていける。やはり歌人の詩ということになるのだろう。八十歳を超えて岡井隆が詩人になるとは思いもしなかった。と同時にごく自然な成り行きとも思える。

2 色川大吉歴史論集『近代の光と闇』(日本経済評論社)

やはり宮沢賢治論と賢治をめぐる人間群像、また五日市憲法をめぐる部分には心躍った。「網野史学」の容赦ない(と思える)幻想打破も学ばされた。

3 金井淑子『倫理学とフェミニズム――ジェンダー、身体、他者をめぐるジレンマ』(ナカニシヤ出版)

日本のフェミニズムが何故こんなにも浸透が浅かったのか、その真摯な反省の書。リブから出発しながらいつのまにか「身体」「性」「欲望」を死角化してきたのではないかと問う。肯綮に当たっていると、同時代を生きてきて思う。

『岡井隆詩集』

岡井隆/著

思潮社

『近代の光と闇 色川大吉歴史論集』

色川大吉/著

日本経済評論社

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