本、雑誌、CD・DVDをお近くの本屋さんに送料無料でお届け!

紙面掲載した書評をご紹介 「図書新聞」の書評コーナー

◆ 2013年上半期読書アンケート【3119号(7月13日発売号掲載)】

⇒図書新聞の書評コーナーTOPはこちら

評者◆澤田直ほか46名

▼2013年上半期に出版された書籍・雑誌等の中から印象に残った3点を選んでもらい、今回、46名にアンケートを寄せていただきました(順不同)。〔編集部〕

◆藤原辰史(農業史)

とらえがたく、おびただしくあるもの。その存在の痕跡を、丹念に追う書物。

1 井黒忍『分水と支配――金・モンゴル時代華北の水利と農業』(早稲田大学出版部)

金・モンゴル期の水の環境史。水をめぐる争いと、その調停。史料に残りにくいものを丹念に掘り起こした力作。とりわけ、石碑の解読過程はスリリングで刺激的。

2 田中祐理子『科学と表象――「病原菌」の歴史』(名古屋大学出版会)

微生物・病原菌の科学史。このとらえがたいものをめぐる科学者たちの言説を、独特の世界観から分析する。パストゥール、コッホ、レーウェンフックの言説を追っていくことで、科学と政治の先入観の崩壊感覚を愉しめる。

3 水溜真由美『『サークル村』と森崎和江――交流と連帯のヴィジョン』(ナカニシヤ出版)

労働文化の歴史。無数の「うたごえ」や「労働歌」などに刻まれた「言葉」が炭鉱労働者たちの闘いのなかで生きた模様を描き、男の女に対するまなざしと、女の男に対するまなざしを無視した変革などありえないことを静かに伝える。森崎和江を読み返したくなった。

『科学と表象 「病原菌」の歴史』

田中祐理子/著

名古屋大学出版会

著者一覧へ戻る

◆川村邦光(民俗学)

 大震災後、岩手県大槌町では、いち早く鹿子踊を復活させている。竹沢尚一郎『被災後を生きる――吉里吉里・大槌・釜石奮闘記』(中央公論新社)に、臼澤良一の「五月の一日に鹿仔踊を伝承館でやったんです(中略)見ている人も舞っている人も、おなじ境遇なんですが、それがあそこの場でひとつになっているんですね。舞っている人と見ている人とが一体化して、あの空間がもうなんていうか異様な雰囲気に」という言葉を載せている。本書では、弔いから建て直しへの道程をあますところなく記している。
 山形孝夫『黒い海の記憶――いま、死者の語りを聞くこと』(岩波書店)の副題は「いま、死者の語りを聞くこと」。犠牲とは実は一方的な押しつけ・負担、そして殺害・殺戮のことであり、その下手人は誰かが問われなければならない。そうでなければ、死者の語りは聞こえないし、死者への語りが届きはしない。
 被曝して、牛舎の中で繋がれたまま息絶え、並んで骨化していく牛たち、野生化する牛や豚たち、「殺処分反対」と記した立て看やアスファルト道などの写真を収めた、針谷勉『原発一揆――警戒区域で闘い続ける”ベコ屋”の記録』(サイゾー)は、原発一揆を唱える吉沢正巳たちの弔い合戦を熱く克明に報じている。

著者一覧へ戻る

◆藤沢周(作家)

1 小嵐九八郎『天のお父っと なぜに見捨てる』(河出書房新社)

迫力。熱狂。運命。こんなイエスを今まで誰が書いた? ナザレ出身の男は、たえず十字架上にある荒い息で訛っている。「命懸けで、幸せのくる知らせを伝えるっちゃ。命懸けという意味は、衣を売ってでも剣を買うということだっち」。イエスの死の謎をまったく新しい解釈とスケールで描いた渾身の一二〇〇枚!

2 高橋英夫『文人荷風抄』(岩波書店)

陰翳。香気。渋味。『断腸亭日乗』や『墨東綺譚』を丁寧に読む端正な佇まい。と同時に、荷風の文章に潜んだ秘密を、繊細に静謐に手繰る想像力の綾。「曝書」=本の虫干しの話から始める荷風考の切り口にも驚きだが、読めば読むほど、陶然のイマジナリ・ポートレイト。灯火管制の暗い部屋で、荷風は女に何を囁いたか。

3 渡部直己『言葉と奇蹟――泉鏡花・谷崎潤一郎・中上健次』(作品社)

細部。溶融。そして、奇蹟。いや、鏡花という書くことの幻想、谷崎という書くことの倒錯、中上という書くことの身体。この執拗に「主題」を反復し書き続けた三者の「奇蹟的な一貫性」に、強度ともいえる微視的耽読を試み、近代文学の無意識に蠢く厖大なる力動をとらえたからこその「奇蹟」といえばいいか。前著『日本小説技術史』(新潮社)と共に、日本文学の批評/創作の未来がここにある。

『天のお父っとなぜに見捨てる』

小嵐九八郎/著

河出書房新社

『文人荷風抄』

高橋英夫/著

岩波書店

著者一覧へ戻る

◆船戸満之(ドイツ文学)

1 フレドリック・ジェイムソン『アドルノ――後期マルクス主義と弁証法』(加藤雅之・大河内昌・箭川修・齋藤靖訳、論創社)

原著の出版は一九九〇年、まさにポストモダン状況の遍在が顕著になったとき。著者はアドルノの主要作品を、先進資本主義国の知識人に向けて解読する。理論が大衆を捉えるとき「理論の存在だけでなくその不在までもが」物質的な力とマルクスを変奏する。ポストモダンにおけるマルクス主義者アドルノ像を刻んだ。

2 ジャン=クレ・マルタン『哲学の犯罪計画――ヘーゲル『精神現象学』を読む』(信友建志訳、法政大学出版局)

『精神現象学』は、何しろナポレオン軍占領下、飛び交う銃声の中を逃走しつつ書き上げた。マルタンは、意識から絶対知にいたる精神の現象(つまりは冒険)をヘーゲル自身の章立てに従って五場にわたって解説する。「すべてが精神の豊かさに彩られたイメージのギャラリー」というヘーゲル自身の危険な歴史画構想を鮮やかに浮かび上がらせる。

3 宍戸節太郎『カネッティを読む――ファシズム・大衆の20世紀を生きた文学者の軌跡』(現代書館)

このノーベル賞作家の思考の出発点としての一九二二年の群集体験(外相ラーテナウ暗殺抗議デモ)は、社会学的思想的大作『群衆と権力』に結実した。それが「変身」概念を通じて、人間の「他在」の可能性を遠望する「詩人の使命」に転換される。博士号取得論文。

『アドルノ 後期マルクス主義と弁証法』

フレドリック・ジェイムソン/著
加藤雅之・大河内昌・箭川修・齋藤靖/訳

論創社

『哲学の犯罪計画 ヘーゲル『精神現象学』を読む』

ジャン=クレ・マルタン/著
信友建志/訳

法政大学出版局

著者一覧へ戻る

◆巽孝之(アメリカ文学)

1 セルジュ・マルジェル『欺瞞について――ジャン=ジャック・ルソー、文学の嘘と政治の虚構』(堀千晶訳、水声社)

一九六二年ジュネーヴ生まれのジャック・デリダの高弟マルジェルの名を知ったのは、北米の批評誌『ダイアクリティックス』第40巻第3号に掲載された「スペクトラルの社会」論である。一九八〇年代に現代批評理論の最先端を吸収していた者には、当時の問題設定を新たな切り口で分析する手腕に惹かれた。折しも二〇〇七年の主著である本書が邦訳されていたのを後から知って、ポール・ド・マン再評価にもつながる展開に感銘を受けた。

2 松浦寿輝『波打ち際に生きる』(羽鳥書店)

松浦寿輝の最終講義集は、フランス文学から現代SFにおよぶ多様な作品群を独自の切り口でまとめあげた美しい一冊。末尾を飾る作者自身の論争的自注を含む著作一覧も読みごたえ充分。

3 キース・エマーソン『キース・エマーソン自伝』(川本聡胤訳、三修社)

最後に、このところ相次ぐ現役ロッカーの回想録のうちでも、プログレッシヴ・ロックの開拓者にして現代最高のキーボーディストの自伝を挙げる。ノースキャロライナ大学チャペルヒル校ではエマーソン研究により音楽学博士号を取得した訳者だけに、著者の歴史的意義がダイナミックに伝わってくる。

『欺瞞について ジャン=ジャック・ルソー、文学の嘘と政治の虚構』

セルジュ・マルジェル/著
堀千晶/訳

水声社

『波打ち際に生きる』

松浦寿輝/著

羽鳥書店

『キース・エマーソン自伝』

キース・エマーソン/著
川本聡胤/訳

三修社

著者一覧へ戻る

◆加藤一夫(ナショナリズム論)

地域の社会運動(「ビキニ事件60年」プロジェクト)を展開しつつあり、その参考文献として読んだ3冊を挙げる。

1 佐々木英基『核の難民――ビキニ水爆実験「除染」後の現実』(NHK出版)

1954年3月のマーシャル諸島ビキニ環礁での水爆実験で故郷を追われたロンゲラップ避難民の59年目の現実。フクシマの現在・将来とダブる。

2 太田昌克『秘録――核スクープの裏側』(講談社)

「核密約」を追及してきたジャーナリストによる「核の傘」と「日米核同盟」の内実。日本のジャーナリズムもまだ捨てたものではない。

3 白井聡『永続敗戦論――戦後日本の核心』(太田出版)

敗戦を「否認」し、ひたすらアメリカに盲従する日本の戦後体制を鋭く分析した若い論者による注目の書。

『秘録 核スクープの裏側』

太田昌克/著

講談社

『永続敗戦論 戦後日本の核心』

白井聡/著

太田出版

著者一覧へ戻る

◆福本英子(ライター)

1 高草木光一編、佐藤純一・山口研一郎・最首悟著『思想としての「医学概論」――いま「いのち」とどう向き合うか』(岩波書店)

2 利光惠子『受精卵診断と出生前診断――その導入をめぐる争いの現代史』(生活書院)

3 吉岡斉『科学時評・第2次安倍内閣の科学技術政策の行方』(「科学」2013年6月号、岩波書店)

近代科学技術の発展と医療の国家支配によって、生命(いのち)が市場原理に組み込まれるようになった。今、その最先端にあるのが山中iPS再生医療であり、3・11後の安倍政権“成長戦略”だが、この流れに職を賭し生活を賭して抗ってきたひとがたくさんいる。
1は澤瀉久敬『医学概論』(1945−59)を起点として、今必要ないのちのための「医学概論」を構築しようとする壮大な試みのひとつである。
2は90年代に日本産科婦人科学会が受精卵診断の導入を図ったのに対して、産む側の女性と生まれることを阻まれる側の障害者がプリミティブな利害の対立を乗り越えて共闘しこれに抗った。その市民運動の当事者による詳細な記録である。
3は前二者とは立ち位置が少し違うが、安倍政権が科学技術政策にたいする総合科学技術会議の司令塔機能を強化し、これを産業側の支配に任せ始めていることへの強烈な批判である。

『思想としての「医学概論」 いま「いのち」とどう向き合うか』

高草木光一/編
佐藤純一・山口研一郎・最首悟/著

岩波書店

著者一覧へ戻る

◆崎山政毅(ラテンアメリカ思想史)

1 中田英樹『トウモロコシの先住民とコーヒーの国民――人類学が書きえなかった「未開」社会』(有志舎)

2 小倉英敬『マリアテギとアヤ・デ・ラ・トーレ――1920年代ペルー社会思想史試論』(新泉社)

3 アイザック・バシェヴィス・シンガー傑作選『不浄の血』(西成彦訳、河出書房新社)

1は、定点観測の極みともいえる現地調査と、厖大な資料を読み込む気の遠くなるような作業が縒りあわされた、圧倒的な労作。なにゆえにアメリカ人類学は資本主義の浸透という意味での「社会進展」と、「閉鎖性」を特質とする「伝統」という異なるヴェクトルを、同じ対象地の同じデータから読み出し得たのか。上質の知的ミステリーでもある。
2は、すでに『アンデスの暁光』(現代企画室)で秀逸なマリアテギ論を上梓している著者による、「ラテンアメリカ思想史」の確固たる実例。激動するラテンアメリカ全体を背景とした1920年代ペルーで、先住民族をとらえる二つの思想潮流がいかに共振と齟齬とを示したのか。骨太な思考に貫かれた一冊。
3は、従来もたれてきたシンガーのイメージを根っこから覆す、血と臓物とセクシュアリティを下敷きにしてイディッシュ文化が凝縮された、恐ろしい魅惑にみちた短編集。この作品が「翻訳」であることを心して読むべし。
いつものおまけ。小原愼司『地球戦争1』(小学館ビッグコミックス)。十九世紀末のイギリスに「宇宙人」が攻めてきて……? この作家は本歌取りの鬼才だと思う。

『不浄の血 アイザック・バシェヴィス・シンガー傑作選』

アイザック・バシェヴィス・シンガー/著
西成彦/訳

河出書房新社

著者一覧へ戻る

◆小森健太朗(ミステリ作家)

上半期の選書としてヴァールミーキ『新訳 ラーマーヤナ』(中村了昭訳、東洋文庫)も選びたいところだが、まだ刊行途中なので、今年後半の全巻完結まで選ぶのは待とう。

庵野秀明責任編集、サンライズ監修、氷川竜介構成・編集『安彦良和アニメーション原画集「機動戦士ガンダム」』(角川書店)

これは単なるアニメの原画集でなく、一枚一枚の絵が豊かな物語を内包した読める画集である。写実的な画風でなく、手塚治虫を源流とする漫画タッチの絵柄から出発した安彦が、それでいてこれだけ奥行きをもって微細な感情の襞を描き分けられる描き手であるのは、ひとつの驚異である。数ある絵師の中で安彦が孤絶しているのは、後継的な画風の者がほとんど見当たらないことにも表れているが、この本はその秘密の一端をかいま見せてくれる。

和ヶ原聡司『はたらく魔王さま!』1〜8巻(電撃文庫。うち、今年刊行されたのは7・8巻)

『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャンを現代的に移植した物語とも言えるヒット作。自分の家族と故郷を破壊しつくした魔王を仇として追う女勇者エミリアが、地上で再会した魔王に対して、憎悪一辺倒でいられない複雑な心情をいだくようになる。アニメも好調。

西尾維新『悲痛伝』(講談社)

四国が結界として閉ざされ、その中で魔法少女と死闘を繰り広げる本作は、ぶっとんだ設定と裏腹に本格的なフーダニットの謎解き小説でもある。

『安彦良和|アニメーション原画集「機動戦士ガンダム」』

安彦良和/著
庵野秀明/責任編集
氷川竜介/構成・編集
サンライズ/監修

角川書店

『はたらく魔王さま!』

和ケ原聡司/著

アスキー・メディアワークス

『庶民烈伝』

西尾維新/著

講談社

著者一覧へ戻る

◆塚原史(表象文化論・現代思想)

日本ではあまり話題になっていないようだが、今年はプルーストの『失われた時を求めて』第一巻「スワン家のほうへ」とアポリネールの詩集『アルコール』が刊行されて百周年にあたる。どちらも二〇世紀フランス文学を代表する作品となったが、一世紀後の今年上半期に日本で目立ったフランス関連の出来事といえば、共和国大統領が時代遅れの原発推進のために来日したことくらいであり、この「0文化先進国」の魅惑は明らかに色褪せた感がある。
そんな状況下でも注目されるのは、湯沢英彦『魂のたそがれ――世紀末フランス文学試論』(水声社)と野村喜和夫+北川健次詩画集『渦巻カフェ あるいは地獄の一時間』(思潮社)くらいだろうか。前者は一九世紀末のユイスマンス、ジャン・ロランらを「終わり」の時代の作家として考察した力作で、後者はアルチュール・ランボーをめぐる詩人と版画家のコラボレーションの記録であり、イメージが言葉を追いつめる静かな興奮が追体験される傑作。
他に思想書としては、飯島洋一『破局論』(青土社)はフランス革命の「失敗」という発想からそれ以後の旧大陸の「破局」をトクヴィル、カフカ、ウォーホル、フランシス・ベーコンらへの接近をつうじて論じた意欲作である。破局といえば、一九一三年が最初の世界戦争の前年だったように、二〇一三年が次のカタストロフに接続していたとしても、誰にも気づかれはしないのだろうか?

『渦巻カフェあるいは地獄の一時間』

野村喜和夫・北川健次/著

思潮社

『破局論』

飯島洋一/著

青土社

著者一覧へ戻る