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室井佑月(むろい・ゆづき)
1972年青森県生まれ。
モデル、女優、レースクイーンなどを経て、97年「小説新潮」の「読者による『性aの小説』」に入選したのを機に作家デビュー。
著書に短編集「熱帯植物園」「血(あか)い花」「Piss」、長編「ドラゴンフライ」、エッセー「ラブ ゴーゴー」「作家の花道」「子作り爆裂伝」など。 |
小説は「ウソ」でも「本当」
――どのような読書体験がありますか?
私、元々は読書家じゃないんです。本を読むようになったのは社会人になってから。友人が読書家だったので、その影響です。読書の楽しみを知った今は「こんな楽しい世界があったんだ」という感じです。白黒の文字から、色やにおいや、想像の世界が広がっていく。素敵なことだと思います。本を読むようになって良かったと思います。今では夜寝る前に必ず何か読むほどの活字中毒です。
デビューしてからは、編集者に薦められてアゴタ・クリストフやレイ・ブラッドベリなどを読みました。さすがベテラン編集者なだけあって、薦められた本は私の好きなタイプばかり。おかげでどんどん読みました。感謝しています。読むのは小説が多いですね。好きな作家の作品を読み続けてしまう方です。
――日本の作家は?
林真理子さん、山田詠美さん、村上龍さん、花村萬月さんをよく読みます。文章のリズム感や、登場人物のキャラクターが好きなんです。たぶん私はわがままな読み手だとだと思うんですね。リズムが自分に合わないとダメだし、登場人物が自分と全然違うタイプだと感情移入できなくて、なかなか読み進めません。ものすごく嫌なヤツでも、1カ所共感できるところがあるようなキャラクターの方が、最後まで読めます。
――自身の小説の登場人物のキャラクターは?
小説は結局、人ひとりの人生を書くことになるので、自分がその人物になりきって書くというか、やはり自分が出てしまいます。エッセイよりも小説の方が「ウソ」を書いているという油断がある分、つい本当の自分が出ちゃうような気がします。
エッセーは日常をそのまま書いています。読者の方が頭がいいので、ウソ書いてもには分かっちゃうと思うし。でも、これは書けないという部分はあるし、こう見られたい自分というのが出ちゃうこともあります。
――小説の魅力とは?
小説は「生もの」だと思うんです。私は、書いていても方針がコロコロ変わります。例えば今書いている連載小説では、主役の次に重要な登場人物を話の流れでつい殺しちゃって(笑い)。後で困るなあ、とは思ったんですけど。でも、小説は「ウソ」だけど、その中のリアリティーが大事だと思うんです。別の登場人物を殺せば都合は良いけれど、小説としてのリアリティーが失われてしまう。それで、この先どうしようか悩んでるんですけれど、今、自分でも早く続きが読みたくてしょうがないんです。いったいどうなるんだろうって楽しみで。だから早く続き書かなくちゃ。
思い出の一冊は「昆虫記」
――思い出の一冊は?
『ファーブル昆虫記』ですね。子どものころ、全然本がない家だったんですけど、誕生日プレゼントか何かでこの本をもらったんです。当時は外で遊ぶのが楽しくてたまらない時期だったので、「本なんて、ケッ」て思ったのを覚えています。でも、暇な時に読んだら面白くて、夢中になって読みました。子どものころの唯一の読書体験。この本は、今読み返しても面白いですね。
――息子さんにも本を読ませたい?
読ませたいですね。本好きなんですよ。6月でやっと2歳なので、まだ字は読めないんですけど、車の本や動物の本を欲しがります。まだ幼いのに、既に好みがはっきりしてるんです。動物の絵なら、まるで本物のように細部を描き込んである方が好きです。ミニカーでも同じ。きちんと作ってあるものは、子どもにも分かるみたいです。
――出版不況と言われていますが。
そう、大変なんですよ。周りにも、食べていけなくて作家をあきらめて田舎に帰った人が何人もいます。何とか生き残りたいと頑張っているんですけれど。
勉強が忙しいのか、子どもたちが疲れているように感じます。本を読むような余裕がないんじゃないのかな。やっぱり本を読むと疲れるし。頭を使いますからね。ゲームは何も考えなくてもできるけど。
作家の若い層にスターが育っていないことにも原因があると思います。例えば、私は『林真理子大研究』を買って読んじゃうくらい林真理子さんが大好きなんですけれど、そういう研究本が出るようなスター作家って、今の若い世代にはいませんよね。スターが育てば、状況も少しは変わるかもしれません。
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