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2003年6月10日読売新聞掲載
心の砂漠にうるおいを
〜いま、おとなにすすめる絵本〜

◆対談/柳田邦男氏&内山理名さん◆
柳田 邦男氏
ノンフィクション作家・評論家。1936年栃木県生まれ。1960年東京大学経済学部卒業。NHK記者を14年勤めた後、作家活動に入る。現代人の「いのちの危機」をテーマに、戦争・災害・事故・公害・事件・病気と医療などに関するドキュメンタリーな作品や評論を書き続けている。
〈 主な受賞 〉 1995年「犠牲(サクリファイス)わが息子・脳死の11日」第43回菊池寛賞/2002年民間航空再開50年記念国土交通大臣特別表彰
絵本は、人生で3度読むべきもの

内山 私は以前から絵本が大好きで、つい最近また読み返してみたんです。そうしたら以前には気がつかなかった新たな感動がたくさんあって、絵本の素晴らしさを再認識しました。
柳田 いくつになっても絵本を読むのは楽しいですよね。歳を重ねるごとに同じ絵本でも胸にジンとくるものが深くなってきます。僕は「絵本は人生で3度読むべきもの」だと考えているんです。まず自分が幼い時、次に親になって子どもを育てる時、そして人生の後半に差しかかった時。読み返す度に、今まで気がつかなかった深い意味が見えてくることが少なくないんですよ。
内山 私もだいじょうぶ だいじょうぶという絵本が大好きで、読み返してみたら全く違う感動がありました。
柳田 日常何気なく使う簡単な短い言葉が、生きる支え、辛い時の支えになったりするんですよね。だいじょうぶ だいじょうぶというおじいちゃんの口癖が孫にも伝わって、おじいちゃんが寝たきりになってしまうと、今度は僕の番だと同じ言葉で励ます。絵本というのは、限られた絵と少ない言葉で象徴的に何かを示唆している。それは心の癒し、生と死、人生の本質だったりするんですけれども、子どもの頃は漠然としか理解できなくても、大人になって改めて読むと、それが強く心に響いてくるんです。

内山 理名さん
女優・タレント。1981年神奈川県生まれ。1998年4月、「フロムA」のCMでデビュー。現在、NHK大河ドラマ「武蔵 MUSASHI」朱実役で出演。ラジオ、TVドラマ・バラエティ、CF、映画にと活躍中。

生と死、幸せの本質−絵本から感じとったこと

柳田 100万回生きたねこっていう本は読みましたか?
内山 はい、大好きです。何度も生き死にを繰り返したねこが、幸せになった途端生き返らなくなったお話ですよね。
柳田 やさしくなって、可愛い子猫たちもいるのに、なんで死んでしまうのかとね。これには人を愛しつづける中では、悲しい別れが必ずやってくるという永遠のテーマが隠されています。もう一つ、人を愛するとは、権力や地位やお金には関係がない。他者と対等になり謙虚になることですよね。であるなら、誰にでも訪れる生老病死を受け入れなければならない。
内山 深いテーマですね。感動してしまいます。
柳田 人生とは何だろうか。生きていく上で本当に大切なものとは。人を愛するとはどういうことか。そう考えながら読みすすめていくと、本当に深いテーマに気がつきますよ。すぐれた絵本は自分が考えていることに答えを出してくれるんです。

大人の心に想像力を

柳田 絵本は言葉が少ない分、イマジネーション(想像力)をかきたてるんです。だからといって無理に理屈っぽく読む必要はありません。絵本作家は、真剣に何年もかけて構想を練り作品化していくわけだから深い意味を塗りこめていく。しかもその表現の仕方は、子どもにとっては子どもなりに面白く、大人が読んでも感動する。いろんな顔をもっているんですね。
内山 クマよという写真集のような絵本があって、これも大好きなんです。
柳田 あれは凄いですね。写真が素晴らしいと同時に言葉も素晴らしく、両方が響きあって増幅されてくる。極北アラスカの広大な雪原の中にクマの親子がポツンと歩いている。そこに「気がついたんだ おれたちに 同じ時間が流れていることに」と書かれている。本の中ではわずか2行の言葉ですが哲学的ですね。
内山 私が今こうして東京で生活している時、場所を変えた同じ時間にクマたちもこうやって生きているんだと思うと、何かすごくドキンとしちゃって。
柳田 内山さんのその感性は素晴らしいですよ。地球上の生命の共存を、星野さんは時間というキーワードで語っているんです。

人生の後半こそファンタジーを忘れずに生きたい

柳田 ちいさなちいさな王様という本の中に出てくる国では、生まれた時から体も能力も大人で大きく、社会的な仕事をこなしていく。しかし、歳をとるごとに体が小さくなっていき、仕事から解放され、雲をながめ、ファンタジーの世界で遊んでいていい。やがてある日塵のように消えてしまいます。その王様が「人間って歳をとるごとに仕事を増やし想像力を失い、疲れ果てて人生の晩年を迎える。全くお気の毒だね」と言うのです。これは実は僕の人生観にしていることなんです。歳をとると「人生下り坂」と言われますが、寂しいことですね。心の世界は歳とるにつれて放物線を描いて落ちていくのではなく、死ぬまで上昇を続けていく。そのためには忙しい毎日でもファンタジーの感性を失わないように、心を耕す心得が必要です。それは毎月2千円の投資で可能になります。
内山 あっ、絵本を買って読むんですね(笑)。私も大人になって仕事をするようになり、日々の生活に追われるうちに、想像する楽しみを味わう余裕をなくしがちでした。でも、これからはファンタジーの心を持って人生を楽しみたいです。早くこの本、読んでみたいですね(笑)。

「座右の絵本」を求めて

内山 面白い絵本を選ぶコツなどはありますか。
柳田 まず頻繁に本屋さんの絵本コーナーに立ってみて下さい。絵本を手に取り、「この絵いいな」と感じるものがあったら買うのです。もちろん図書館で読むのもいいですが、気に入った作品はぜひ買って、何度も読んでみることをおすすめします。それがいつしか自分にとっての「座右の絵本」として心の財産になっていきますよ。
内山 絵本がそばにあるだけで、何か幸せな気分になりますよね。今日私は先生に絵本の面白さ、深さを教えていただいて、もう読みたくて仕方がなくなっています。
将来、私が子どもに読んであげる時には、また別の見方ができるのでしょうね。
柳田 その通りだと思います。絵本はまさに「人生の鏡」でもある。一冊一冊に自分の人生が映っている。読み返すたびに、懐かしい想い出が甦りますよ。それを「我が家の文化」として親から子へ受け継いでいってほしいものです。

内面を耕してくれる絵本をもっと大人に読んでもらいたい。

柳田 絵本は子どものためだけにあるのではなく、大人の人生をも耕してくれます。だから内面の成熟をさらに深めるためにも、大人にこそもっと絵本を読んでもらいたいと思います。最近ではアジアやアフリカなど、これまであまりなじみのなかった国々を舞台にした作品も出版されるようになってきました。そこで暮らす人々の生活や心が描かれていて、同じ人間なのだと親近感を抱きますね。また、こういう先行きの見えない時代ということもあって、生と死や心のもち方を扱った作品も増えています。ゆっくりとページをめくり、心の中にうるおいとゆとりを取り戻してほしいですね。大人が絵本を座右に置くならば、必ずや子どもも変わるでしょう。

 
柳田邦男氏がおとなにすすめる24冊の絵本
◆「生と死」、そして愛と悲しみと
◆想像力を取り戻そう
◆生きることの苛酷さ−−人間疎外
◆こんな心のもち方が
◆人生にどう答えを出すか

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