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柳田 邦男氏
1936年、栃木県生まれ。作家。ノンフィクションの著書多数。最近は「生と死」、心と言葉の危機に目を向け、『言葉の力、生きる力』、『砂漠でみつけた一冊の絵本』、『大人が絵本に涙する時』、『壊れる日本人
ケータイ・ネット依存症への告別』、『石に言葉を教える 壊れる日本人への処方箋』を刊行。絵本の翻訳も『エリカ 奇跡のいのち』、『だいじょうぶだよ、ゾウさん』など多数。
〈主な受賞〉1972年「マッハの恐怖」で第3回大宅壮一ノンフィクション賞、1995年ノンフィクション・ジャンルの確立への貢献と「犠牲(サクリファイス)わが息子・脳死の11日」で第43回菊池寛賞 |
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柳田 邦男氏メッセージ |
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いくつになっても、絵本は心を潤してくれる。絵本をいつも座右に置く生活を続けると、必ずや心の持ち方が変わり人生が変わります。 |
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大人のこころの忘れ物
柳田 関谷さんは現在、子育ての真っ最中ということですが、お子さんはお幾つですか。
関谷 今年3月に、4歳になったばかりの女の子を育てています。
柳田 絵本の読み聞かせをすると、反応が面白いでしょう。
関谷 はい。子どもへの本の読み聞かせの重要性は重々承知していたので、それこそ出産前から絵本を買って、誕生後一カ月ごろから読み聞かせをしていました。同じページで笑ってくれたり、さまざまな反応をしてくれることが嬉しかったですね。でもそのうちなかなか子どもは親の思うようにはならないことを実感しました。私はアナウンサーでもあるし、精一杯抑揚をつけ、物語を追って感情をこめて読んであげようと思うのに、子どもは展開を無視して、まず自分の好きな絵のあるページを探しはじめたりします。そんな行為を目の当たりにして「もう、ちゃんと聞いてくれないなら読むのやめちゃうから」なんて、言ってしまったこともありました。
柳田 子どもはまず絵に引かれて、そこにお母さんの声がかぶさってくるんですね。
関谷 そうなんです。でも徐々に絵のタッチや、配色を他の本とくらべたりしながら「似てるね」とか「同じだね」という子どもの反応を見ていて「ああ、子どもには子どもなりの楽しみ方があるんだな」なんて思うようになりました。
柳田 そんな関谷さんの好きな絵本って、どんなものですか。
関谷 好きな絵本のひとつに『てぶくろ』(福音館書店)があります。落とし物のてぶくろの中に、7匹もの動物が入ってしまうという物語です。一見、単純で非現実的な話なのですが、子どもにとっては「こんなに楽しいことはない」らしく、大喜びしながら読んでいます。
柳田 大人にとっては非現実的な話でも、わずかな空間をみつけると押し合いっこしながら入りたくなる子ども達にとっては、現実的な話なんですよね。人は大人になるにつれ、子どものころに抱いていた「空想力」や「想像力」をどこかに落としてきてしまう。「世の中はこうなっているとわけ知りになることが、大人になることだ」というならば、大人になることって、なんてつまらないことなんだろうって思いますよね。
関谷 実は私も読み聞かせ用として、この絵本を選んだとき「はたして子どもは、この物語を面白いと思うのだろうか」と、半信半疑だったのです。読み聞かせたあと、手放しで喜ぶ様子を見て、一瞬でも疑ってしまった自分の感覚を悲しいなって思ってしまいました。
きめ細やかな感情を育む
柳田 絵本には物語を通して「思いやり」や「別れの受容」など、人生の中で求められる心の成長を子ども達に伝えるものもあります。大好きだったおじさんの死を受け止められずにいた小学一年の男の子が、『だいじょうぶだよ、ゾウさん』(文渓堂)を読むことで、「つらい別れについて自分なりに理解できた」ということを綴った読書感想文は、とても感慨深いものでした。
関谷 「死」や「別れ」を子どもに教えることって、とても難しいことですよね。
柳田 子どもに理屈で説明しても伝わりにくいですからね。そんな時、子どもを抱きかかえながら、お母さんが声をつまらせたり、一緒に涙を流しながら本を読み聞かせると、子どものきめ細やかな感情を育むことができます。これが絵本の素晴らしさなのです。
関谷 子育てをしていて「待つ」ということが、なかなかできない自分がいました。そんな時に読んで「はっ」とさせられたのが、『おでかけのまえに』(福音館書店)という絵本です。この物語はピクニックに出掛ける朝、両親が忙しく支度をしている様子をみて、女の子がお手伝いしようとするのですが、失敗ばかり。私なら結果だけ見てつい叱ってしまうところなのに、この女の子の両親は決して怒らない。お母さんは「あらあら」、お父さんは「おやおや」と、穏やかな反応なんです。実際には難しいことだとは思いますが、子どものしたことについて怒る前に一瞬立ち止まって見守る余裕をもちたいなあと思いましたね。
柳田 朝の食卓でテレビをつけないでいると、この物語の親みたいになれるのでしょうね。ゆったりと食事をしながら学校や友達の話をしたり、親子の会話が成り立つようになる。夜も決められた時間にテレビを消すようにする。そして早く寝る。そんな習慣が広がれば「早く、早く」という変な文化を払拭することができるでしょうね。
関谷 絵本を読み聞かせることによって、その物語や子どもの反応によって教えられることって多いですよね。ついやってしまいがちな間違った行動に対して、シンプルな言葉で気付かせてくれます。そんな意味でも「絵本ってありがたいなあ」って思いますね
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関谷 亜矢子氏
1964年東京都生まれ。国際基督教大学教養学部社会科学科卒業、社会学専攻。1988年日本テレビ放送網株式会社にアナウンサーとして入社、「ジパングあさ6」「The・サンデー」などの他、「スポーツMAX」、リレハンメル、長野五輪現地取材など主にスポーツ番組を担当。2000年結婚を機に日本テレビ退社後、イベント・シンポジウム司会などで活動中。ほか「エンゼルのいる星」ナレーションを担当(毎週日曜午後9時54分日本テレビで放送中。 |
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絵本の想像力や感性を取り戻す
柳田 絵本には物語を通して「思いやり」や「別れの受容」など、人生の中で求められる心の成長を子ども達に伝えるものもあります。大好きだったおじさんの死を受け止められずにいた小学一年の男の子が、『だいじょうぶだよ、ゾウさん』(文渓堂)を読むことで、「つらい別れについて自分なりに理解できた」ということを綴った読書感想文は、とても感慨深いものでした。
関谷 「死」や「別れ」を子どもに教えることって、とても難しいことですよね。
柳田 子どもに理屈で説明しても伝わりにくいですからね。そんな時、子どもを抱きかかえながら、お母さんが声をつまらせたり、一緒に涙を流しながら本を読み聞かせると、子どものきめ細やかな感情を育むことができます。これが絵本の素晴らしさなのです。
関谷 子育てをしていて「待つ」ということが、なかなかできない自分がいました。そんな時に読んで「はっ」とさせられたのが、『おでかけのまえに』(福音館書店)という絵本です。この物語はピクニックに出掛ける朝、両親が忙しく支度をしている様子をみて、女の子がお手伝いしようとするのですが、失敗ばかり。私なら結果だけ見てつい叱ってしまうところなのに、この女の子の両親は決して怒らない。お母さんは「あらあら」、お父さんは「おやおや」と、穏やかな反応なんです。実際には難しいことだとは思いますが、子どものしたことについて怒る前に一瞬立ち止まって見守る余裕をもちたいなあと思いましたね。
柳田 朝の食卓でテレビをつけないでいると、この物語の親みたいになれるのでしょうね。ゆったりと食事をしながら学校や友達の話をしたり、親子の会話が成り立つようになる。夜も決められた時間にテレビを消すようにする。そして早く寝る。そんな習慣が広がれば「早く、早く」という変な文化を払拭することができるでしょうね。
関谷 絵本を読み聞かせることによって、その物語や子どもの反応によって教えられることって多いですよね。ついやってしまいがちな間違った行動に対して、シンプルな言葉で気付かせてくれます。そんな意味でも「絵本ってありがたいなあ」って思いますね
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絵本と過ごす毎日が日本を変える
柳田 僕は以前から「絵本は人生で三度読むべきもの」といってきました。まずは自分が子どもの時、そして子育ての時、さらに人生の後半にぜひ読んでみてください。
この心の砂漠のような時代に、大人こそが絵本を読んで、忘れてしまった豊かな感性や、物事に対する素直な気持を取り戻しましょう。そこでみなさん、ぜひとも月に1?2冊の絵本が買えるように、家計から予算を捻出してください。また、そうして購入した絵本をご家庭で常に目につく場所に並べてください。そんな文化が確立されれば、日本が変わるかもしれない。そんな大それたことを考えて、この運動を続けてまいります。なぜなら、それは僕自身が楽しいからです。
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