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夜と霧 新版
ヴィクトール・E.フランクル/著
池田香代子/訳
出版社/みすず書房
本体価格/1,500円 |
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原著1977年版にもとづき、新しく翻訳されたこの新版は、
世代を超えて読みつがれたいとの願いから生まれた |
・・・今なぜ改めて訳すのか。不審に思われる方もおられるだろう。私自身も、最初は荒唐無稽な話だと思った。遠く学恩に浴してきた霜山訳に、そのようなことは断じてできない、とも思った。けれど、今この本を若い人に読んでもらいたい、という編集長の熱意に心を動かされ、また霜山氏から思いがけない励ましをいただいて、僭越は百も承知で改訳をお引き受けした。
けれど、これは訳すべきだった、というのが、訳了した感想だ。なぜなら、霜山氏が準拠した一九四七年刊の旧版とこのたび訳出した一九七七年刊の新版では、かなりの異同があったからだ。(中略)
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旧版と新版のもっとも大きな違いは、旧版にまつわる驚くべき事実から語り起こさなければならない。旧版には、「ユダヤ」という言葉が一度も使われていないのだ。「ユダヤ人」も「ユダヤ教」も、ただの一度も出てこない。かつて何度か読んだときには、このような重大なことにまったく気づかなかった。
まずなにより、フランクルはこの記録に普遍性を持たせたかったから、そうしたのだろう。一民族の悲劇ではなく、人類そのものの悲劇として、自己の体験を提示したかったのだろう。さらにフランクルは、ナチの強制収容所にはユダヤ人だけでなく、ジプシー(ロマ)、同性愛者、社会主義者といったさまざまな人びとが入れられていた、ということを踏まえていたのではないだろうか。このことに気づいたときは、思わず姿勢を正したくなるような厳粛な衝撃を受けた。
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〜本書「訳者 あとがき」より |
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