からくり人形の指南書ともいえる細川半蔵作の機巧図彙には、「茶運び人形」はじめ9種の設計図、製作の手順が載っています。多くの図を駆使し、微に入り細に入り丁寧に解説しているこのような本は、当時、世界的に例がありませんでした。日本人の機械工学における先進性を証明しているとも言えます。 江戸時代は、機巧図彙に登場する人形のほか、「酒買い人形」や「人力飛行機」、「弓曳き童子」といった様々なからくり人形も製作されました。こういったことから江戸時代は日本人にとっての機械工学の発祥の時代「からくりの時代」と言うことができるでしょう。 細川半蔵をはじめ、江戸時代からくり人形に関わったとされている人々が以下の地図のように全国にいました。彼らは創意工夫を重ね、日々奮闘していたようです。
「機巧図彙」の序文には以下のように記されています。 「夫奇器を製するの要は 多く見て 心に記憶し 物に触て機転を用ゆるを学ぶ。(中略)此書の如き 実に児戯に等しけれども 見る人の斟酌に依ては 起見生心の一助とも成なんかし。(機械を作り出すために大事な点は、多くの物を見て心にとどめ、また実際に物を触って確かめ、ヒントを得ることだ。この本にのっていることは、子供の遊びにすぎないかもしれないが、見る人の心構えによっては、そこから何かを得、発明のきっかけにもなるはずだ。)」 江戸時代、科学技術者としての名声を上げながら、あえて玩具のごときからくりの技術に着目した精神はこの一文に要約されているといえるでしょう。例え玩具であっても、技術者として何か学びとろうとする意欲と目があれば、偉大な発見、発明につながることを、半蔵は喝破していました。その技術者としての確かな目は、時代を越えて、「モノ作り」の本質を見通しているといえるのではないでしょうか。